私たちの生活においてインターネットは切っても切れないものになっている。そして、あらゆるものがインターネットでつながり、IoT化が急加速で進んでいる。IIoT Timesでも取り上げたように、製造業でのスマートファクトリー化への取り組みが加速しており、また、インダストリー4.0を実現するための技術として、現実の工場全体で起こっているパフォーマンスを、ほぼリアルタイムでバーチャルの世界を通じて把握できるようになる技術、デジタルツインへの関心も高まっている

デジタルツインのような技術は、将来のモノづくりを劇的に革新させることが期待される。こうした先端技術が完成するのはまだ先のことであるが、Industrial IoT分野においては、今既に動き始めている技術やソリューションも数多く存在する。8月2日(金)、東京・大手町で開催された「Industrial IoT Meeting」では、「本物は、既にここで動いている。」をテーマに、既に動き始めているIndustrial IoTは何か、またそれをどのように実装すれば良いのかについて、多くの事例が紹介された。「IIoT特集」では、同イベントに登壇した日本マイクロソフト(以下:日本MS)、トヨタ自動車、オムロンについてレポートする。第1回目は日本MSを紹介する。

デジタルの力で週勤4日制に挑む

日本MSは、今年8月の1ヵ月間、国内の全社員約2,300人を対象に、「週休3日制」を試験導入した。8月の金曜日をすべて有給の「特別休暇」とし、国内の全オフィスを閉鎖するが、これは休みを3日間に増やすことを目的とする「週休3日制」ではなく、週4日間で5日分の仕事をこなす「週勤4日制」、つまり、生産性を上げより効率的に働くことを目的とした試みだという。「Industrial IoT Meeting」に登壇したコンシューマー&デバイス事業本部 デバイスパートナー営業統括本部IoT デバイス本部 村林智氏は「5日間の仕事を4日で行うためには、1時間のミーティングを30分で終了させる、5人で行っていた会議を3人にする、メールはなるべく使わないなどの効率化が求められる。そして、それを実現するにはデジタルやクラウドの力が必要になる」と説明する。テクノロジーを通じ、「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする(Empower every person and every organization on the planet to achieve more)」のは、Microsoftの企業ミッションでもある 。

製造業における「Azure」の活用事例

Microsoftでは、2010年に企業向け製品の開発・販売で得た経験やノウハウを元に開発されたクラウドサービス「Microsoft Azure(以下:Azure)」の提供を開始した。村林氏は、「Microsoftと言えば、WindowsやOfficeの会社といった印象が強いが、現在ではクラウドサービスも重要になっている」と語る。米Microsoftが4月24日に発表した第3四半期(1~3月期)の決算では、Azureの売上高が73%増と好調であり、近年、Azureへの注目度が増している。

特に「ドイツでの利用率が急増しているという。残念ながら、日本はやや遅れているが、今後、急激にIoTをクラウドで利用する動きになるだろう。また、あるアンケート結果によると、“どのクラウドプラットフォームを使いたいか”という質問に対してAzureとの回答がAWSを上回る結果になった」と説明する。MM総研が発表した「2019年国内クラウドサービス需要動向調査」によると2018年度におけるクラウドサービス市場全体の規模は約1兆9,422億円で、2017年度18.1%増。2023年度には4兆4,754億円まで拡大することが見込まれる。また、プライベートクラウドは2018年度1兆3,257億円、2023年には2.8兆円に達し、2018年度から2023年度までの年平均成長率は16.3%程度と予測していることからも、国内でのクラウド利用はますます拡大していくと考えられる。

日本MSでは、すでに「Azure」を活用して企業や自治体の課題を解決している事例があり、村林氏は、その一例として愛知県の金属加工メーカーである久野金属工業を紹介した。

同社では、以前からIT を活用して社内の機械、装置の稼働状況をモニタリングしてきた。しかし、さらなる効率化を図るため、「Azure」をプラットフォームにした新たなモニタリングシステムの構築に着手し、2018年にマイクロリンクと共同で「IoT GO」をリリースした。これにより、生産ラインの稼働状況をいつでも、どこからでも閲覧することが可能となり、生産効率が向上したという。

村林氏はさらに、「PoC(Proof of Concept=概念実証)をすると、多くの人が可視化しようという話になるが、実際にはできていないことが多い。“ウチの工場は稼働率70%、80%”だと思っていても、SCADAなどのツールを入れてみると、実は稼働率が30%程度ということがある。可視化できるということは、現場のデータが溜まる。データが溜まることで過去の無駄が明確にわかり、次のアクションができる。可視化することで、今まで見えてこなかったことが見えてくる。製造現場における可視化は非常に重要である」と説明する。

製造業以外でも活用される「Azure」

その他、製造業以外でも複数の事例を紹介した。石川県加賀市では、効率的に除雪作業をするため、除雪車の稼働状況をデータで可視化し、住民へのサービス向上と除雪費用や人員の適切化につなげている。また、近畿大学水産研究所では、養殖用の稚魚を出荷する際、これまでは適切な大きさ、奇形の有無を20名程度の作業員がチェックしていた。しかし、人手不足や知見の継承が難しくなってきたことから、稚魚の検査にAIを活用することで、業務効率を改善している。

さらに、AIを活用した事例として、三重県・伊勢市で食堂や商店などを営む創業100年の老舗企業「ゑびや」を紹介した。これまでは、従業員の経験と勘を頼りに食材を購入していたため、需要予測が正確にできず、欠品になったり余分な在庫を抱えてしまうといった課題があった。しかし、AzureのAIサービスを活用し、来店者数や購入者数、さらには購入者の男女比を把握し、適正な商品の発注や新たな商品開発に役立てた。

村林氏は、「AIを活用したことで、POSデータだけではわからないデータを収集できた」と説明する。そして、その結果、販促活動や店舗オペレーションの精度・生産性が飛躍的に向上したという。また、AIによって雇用が失われるという指摘に対して、村林氏は「AIはあくまでも人が行っている作業をサポートする立場である。AIが業務をサポートし、人ができることにもっと時間を費やせることが大切である」と説明した 。

パートナーとの協創で、さらなるIIoTの実現を

どこからでもアクセスができ、データを溜めることが可能であることがクラウドの特徴であるが、村林氏はさらに、Azureの強みとして「オープンなアプローチで課題を解決できること」だと加える。例えば、Microsoft、Adobe、SAPの3社で相互のサービス間でデータをやり取りしやすくするため「Open Data Initiative」を立ち上げた。また、2019年4月には、BMWグループとスマートファクトリーのプラットフォームを共同で展開することを目指した「Open Manufacturing Platform」を開発するなど、多くのパートナーとの連携を図っている。BMWグループでは、ドイツ・レーゲンスブルクのBMWグループ工場で同プラットフォームを使用しており、輸送システムの集約的な調整を行い物流プロセスがシンプルになり、物流の効率性が大きく向上したという。

最後に村林氏は、「Microsoftの歴史は、民主化の連続である。皆が使える環境ではなかったインターネットは、Windowsで使えるようになった。皆がよりワープロ、表計算ができるようにOfficeを立ち上げた、そして、皆が安心してクラウドを使えるプラットフォームとしてAzureを提供している。これからは、IoTは活用しなければもったいない時代になるはずだが、何を使えば良いかが課題となる。MicrosoftにはWindowsやOfficeがあるし、多くのパートナーもいる。また、“クラウドのことは詳しいけどAIはわからない”、“現場のことはわかるがIoTのことがわからない”といった悩みを持っている人たちがいる。そうした人達の悩みを解決するため、『IoTビジネス共創ラボ』も発足している。今後も、様々なパートナーと協創して、デジタルの力を活用して良い製品を作り、IoTを気楽に使える仕組みも整えていていきたい」と今後の目標について語った。