2019年9月、ファナック、日立製作所、NTTドコモは、工場やプラント内で第5世代移動通信システム(以下 5G)の有用性を共同で検討すると発表した。工場の完全無線通信化や5Gの特長を生かした生産効率の向上などを目指し、2021年夏までをめどに、ファナックの本社工場でNC装置、ロボット、工作機械などの産業機器と5Gの接続や無線制御を検証する。また同月、オムロンとNTTドコモ、ノキアソリューションズ&ネットワークスの3社が連携し、オムロンの工場で5G活用の実証実験を開始することも発表された。この実証実験では、経験の浅い従業員の作業の様子を撮影し、人工知能(以下 AI)で熟練の作業員との違いを分析、若手従業員には5Gを使ってリアルタイムに作業の指示を出すことで作業効率を高める他、製造設備を無線でつなぎ、レイアウトを変更しやすくするという。さらにDMG森精機はKDDIと共同で、今秋にも5Gの基地局を伊賀事業所に設置し、事業所内にある約150台の工作機械をつなぎ、保守・管理や遠隔操作などの応用を探る実証実験を開始する。このように、製造業が携帯電話会社と協力し、5Gを活用する実験が広がっている。

5Gのメリット

5Gの「G」は「Generation(世代)」を意味する。第1世代である1Gは、アナログ方式の携帯電話に初めて採用された通信システムであり、日本では1980年代に普及した自動車無線電話で使われていた。その後、2G、3Gを経て、現在は4Gが世界の主流となっており、1Gから4Gへ通信システムが移行されていく中で、通信速度は飛躍的な向上を繰り返してきた。4Gでは、50Mbps(Mega bit per second)~1Gbps(Giga bit per second)程度の超高速大容量通信を実現しており、無線LANやBluetoothなどと連携し、固定通信網と移動通信網をシームレスに利用できるようになっている。そして現在、実用化に向けた実証実験が進んでいる5Gの実効速度は、4Gの約100倍となる最大100Gbpsに達すると言われている。しかし、5Gが優れているのはこうした“超高速通信”だけではない。総務省は、5Gの持つその他の特徴として「多数同時接続」、「超低遅延」を挙げている。「多数同時接続」とは、1台の基地局から同時に接続できる端末が従来に比べて飛躍的に増やせることであり、これまではPCやスマートフォンなど数個程度が接続できたものが、5Gにより100個程度の機器やセンサーを同時にネットワークで接続できるようになる。これにより、例えば倉庫に保管された多数の物品の位置や中身の把握、災害時に大勢の避難者にウェアラブル端末を着けて健康状態を遠隔で確認する、といった用途への活用が見込まれている。超低遅延とは、通信ネットワークにおける遅延(タイムラグ)を極めて小さく抑えられることであり、特に医療業界や自動車業界では恩恵を受けると言われている。

医療では、ARを使った技術の訓練援助が遅延なく利用できたり、医師が遠隔でロボットアームを操作して行う「遠隔手術」の活用も見込まれている。また、VRによって、患者が落ち着く空間を提供し、メンタルヘルスに貢献することもできる。自動車では、自動運転の実現に向け、運転の操作や監視には高い安全性が求められ、さらに、地図データや走行データ処理などは、より高速なデータ処理が必要となる。それらを送受信できるネットワークとして、5Gに対する期待が高まっている。

4Gが“人と人とのコミュニケーションを行うためのツール”として発展してきたのに対し、5Gは“あらゆるモノ・人などが繋がるIoTの新たなコミュニケーションツール”としての役割を担うことになり、IoT時代の重要な基盤になるものである。そして、5Gの実現により、これまでのコミュニケーションのあり方が変わり、新たなビジネスの創出に繋がっていくことが期待されている。日本では、2010年頃からNTTドコモが5Gの研究に取り組み始め、2014年に企業や専門家によって「第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)」が設立され、標準化を推進している。

製造業での5Gの活用

製造業における「5G」の活用用途としては、工場で稼働している機械の故障予測や検知、産業用ロボットの制御、製造や配送工程におけるトレーサビリティなどが挙げられる。また、工場内のあらゆる機器や設備、工場内で行う人の作業などのデータを取得・収集し、そのデータを分析・活用することで新たな付加価値を生み出せるようにする「スマートファクトリー」の実現に向けても、5Gは大きな役割を担っている。それは、工場などの製造現場で用いられるネットワークは、リアルタイム性と安定性が求められているため、これまでは有線によりネットワークをつないでいたのが一般的であった。しかし、5Gの特徴である「多数同時接続」や「超低遅延」により、有線を用いなくても製造現場での要求を満たすことができる。さらに、高速・大容量化によって、AIの活用が進む映像データの取り扱いが容易となることで、スマートファクトリーの有力なアプリケーションになると考えられている。

前述したファナック、日立製作所、NTTドコモ実証実験において、ファナックでは自社工場内にある工作機械やロボットなどの産業機器を5Gで接続することや無線制御の検証を行っている。そして、将来的にはファナックが提供している製造業向けオープンプラットフォーム「FIELD system」と5Gを組み合わせ、スマートファクトリーソリューションとして外販することを目指しているという。

また、最近では現場で蓄積されたノウハウの伝承が課題となっているが、5Gで熟練工の作業を撮影し、その動きをAIで分析させ、作業者の生産性の向上や人材育成にもつなげることが期待されている。

製造業で5Gを活用する上での課題

現在、複数の企業が5Gの実証実験を行っているように、今後、製造業で5Gを活用することが期待されている。しかし、現状では活用するための課題も出ている。それは、5Gの整備が進むのは人口が密集する都市部からであり、製造業の工場は必ずしも都市部にあるわけではなく、人口が少ない地方に多く存在している。そのため、工場があるようなエリアに5G環境が整備されるまでには時間がかかるのである。そうした課題は総務省でも認識されており、その課題を解決するための制度として検討されているのが「ローカル5G」である。

地方に工場がある場合、5G環境が整備されるまでに時間がかかるという課題がある

ローカル5Gとは、携帯電話事業者が全国で提供する5Gサービスではなく、企業や自治体が導入する5G通信であり、自己の建物内または自己の土地の敷地内だけでの利用を許可された5Gの周波数を割り当てるものである。ローカル5Gを利用するためには免許が必要となり、免許取得のための整備はまだ確立されているわけではない。しかし、製造業において、ローカル5Gを利用することによるメリットはいくつか挙げられる。そのひとつは、一般向けのサービスではなく、自社のみで利用できる帯域であるため、高い安定性が期待できる。また、セキュリティにおいてもオープンなネットワークに接続しないことで、工場内のあらゆる情報が外部に漏れるリスクを軽減することができる。さらに、自分たちが希望する場所にエリアを展開することが可能となる。通信事業者による5Gのサービスを利用する場合、5Gの基地局をどこに設置するかは事業者の都合になってしまう。しかい、ローカル5Gであれば、導入時期、設置場所などは、すべてを導入する企業の都合で決めることができる。インダストリー4.0を提唱するドイツでは、2018年4月に「5G Alliance for Connected Industries and Automation(5G-ACIA)」を発足させ、通信業界とともに5Gの製造業への導入を促進させる取り組みを開始している。また、米国では、通信事業者に割り当てられた5G周波数を通信事業者以外に貸し出すことで、ローカル5Gを展開することを可能にしているなど、海外でもローカル5Gの制度化に向けた検討が進められている。

5Gに対する意識

米国調査会社のHarbor Researchは、ローカル5Gにより、IoT市場は2028年に3,560億米ドル(約39兆8000億円)になると予測している。一方、アクセンチュアが日本、米国、英国、スペイン、ドイツ、フランス、イタリア、シンガポール、アラブ首長国連邦、オーストラリアの10ヵ国、12業種に所属する915人の技術担当幹部および913人の経営層に対し実施した調査によると、「5Gについて何を知らないかについても分からない」と回答した経営層は、グローバル全体で60%、日本では68%と高い水準であることが分かった。さらに、経営層全体の72%は「5Gがもたらす将来の可能性と有効な実用例を見極めるには支援が必要」と回答しており、5Gを導入するにはまだ慎重な姿勢を見せていることもうかがえる。とはいえ、グローバル全体の70%が「5Gの活用が営業上の競争優位につながる」と回答しており、5Gを活用することが今後のビジネスにおいても重要であるとの認識を示している。ドイツや米国、中国、韓国でも2019年から5Gの商用展開を開始している。製造業においても大きなメリットが期待されている5Gであるため、今後の動きに注目していきたい。