10月の特集で、5G通信がもたらす信頼性や低遅延通信、また多数同時接続といった要素が製造業を大きく変える可能性について触れた。また、「5Gはスマートフォンによる通信需要の密集する都市部から整備されていくが、遠隔制御や自動制御のニーズが高い工場が主に立地するのは地方部である」というジレンマを解消するため、企業の建物内や工場の敷地内だけでの利用を許可された周波数を割り当てるローカル5Gを活用しようとする試みがあることを紹介した。今回の特集記事は、ローカル5Gの導入に向けた国内外の取組みを取り上げる。

ドイツの取組み

ドイツでは、通信業界とともに5Gの製造業への導入を促進させる取組みが進んでおり、アウディは、2018年からローカル5Gの試験導入を始めている。同社は、部品を溶接する産業用ロボットをより高速、かつフレキシブルに稼働させつつリアルタイムにデータを収集するためにローカル5Gを利用している。そして、今後、全施設のWi-Fiを5Gに変更していくことを検討しているという。また、自動車部品大手のボッシュは、2019年11月、ドイツの連邦ネットワーク庁に5Gのローカルライセンスを申請したと発表した。自動車の未来のための官民パートナーシップによる研究機関「ARENA2036」では、2019年3月に、ノキアがプライベートLTEおよびローカル5Gのネットワークを構築した。ARENA2036は、「5GはロボットアームやAGV、製造工場におけるフレキシビリティの確立には必然であり、実現することで結果的に生産性が上がる」とコメントしている。

ドイツテレコムは、現在、LTE(4G)で展開されているソリューションを、今後5Gに移行していく予定であるという。例えば、ドイツテレコムは公衆網とプライベートLTEを同一インフラ上に組み込んだ「Dual-Slice」ネットワークソリューションを提供している。これは産業用ロボットやAGVの制御にプライベートLTEを活用することで、高信頼性と超低遅延を担保し、有線と同等のパフォーマンスを実現するもので、シーメンスグループのランプメーカーであるオスラムの工場に試験導入されている。現状では、LTEが最速の回線であるが、デバイスに装着されるセンサーとクラウドサーバーとの間で遠隔通信をする際の速度の問題や、送受信するデータ量の制約があった。今後、4Gよりも100倍近く高速な10Gbpsを超える通信が可能な5Gが導入されることで、製造業のスマート化が加速することになる。

日本のローカル5Gガイドライン

日本においても、総務省が「ローカル5G検討作業班」を立ち上げ、ローカル5G導入に向けた検討を進めるとともに、9月27日にローカル5Gガイドライン案を策定。10月28日まで実施されたパブリックコメント(意見公募)を経て、12月17日にガイドラインが発表された。12月24日にローカル5G無線局免許の申請受付を開始する予定となっている。ローカル5Gは、NTTドコモやKDDIなど携帯事業者による免許取得を認めていないため、大手ITベンダーや携帯大手以外の通信事業者が次々と参入を表明している。すでに、NECや富士通、パナソニック、東芝がローカル5Gを使った「スマート工場」サービスへの参入を表明しており、また、NTT東日本とNTT西日本に対しても、携帯電話事業者との連携による実質的な移動通信サービスを提供しないことを条件に参入を認める方針となっている。

各社の取組み

10月に開かれた「CEATEC 2019」では、京セラ、富士通が開発中のローカル5Gシステムを展示した。11月29日に開催されたローカル5Gサミットでは、総務省による発表の他、様々な企業からローカル5Gに関連する取組みや戦略についての発表がなされた。

NTT東日本と東京大学は2020年2月に「ローカル5Gオープンラボ」を設立し、ローカル5Gの活用を目指す企業や自治体向けに実証実験のための環境を提供する。また、NECが玉川事業場内に開設する予定の共創施設、「ローカル5Gラボ」では、サービス利用者がローカル5Gの通信環境を体感できる他、利用者の機器と5Gネットワークを接続してユースケースの検証も可能となる。NECは、2020年度以降には、ICTシステム機器の開発・製造・販売を行うNECプラットフォームズの甲府とタイ工場からローカル5Gを導入していく方針としている。京セラは、ローカル5Gのネットワーク構築を可能にするローカル5Gシステムと、5G接続が可能なデバイスを開発しており、まずは自社の工場で実証実験をスタートする予定である。

12月11日には、ノキアが国内向けにローカル5G/プライベートLTEのサービスを展開するためのエコシステムパートナーシップを発表した。ノキアは、パートナーシップを通じてエンドツーエンドの産業向けプライベートLTEポートフォリオを提供することで、日本のIIoTの促進に貢献するとしている。

製造業以外でも活用が期待されるローカル5G

製造業だけではなく、農業や畜産業においてもローカル5Gの活用が期待されている。日本では、農業就業人口の6割が65歳以上、3割が75歳以上となり高齢化が進展しているが、様々な情報を収集する農業用センサーに加え、給餌ロボット、散水・薬剤散布ドローンなどを導入することで、自宅/遠隔からの畜産・農作業管理が可能となる。

2019年11月には北海道上⼠幌町(とかち村上牧場⽜舎内)で実証実験が行われた。実験では、⽜舎内に複数の4Kカメラを設置し、5Gシステムと接続し画像認識を行うサーバに映像を伝送。サーバでは⽜の⽿についた標識(⽿標)から識別番号を読み取り、⽜舎内で特定の⽜の位置と個体識別の把握を行った。エサ押しロボットの搭載カメラの映像や動く牛の標識を識別するためには、高画質・大容量の動画の伝送が必要であり4Gでは限界があったが、ローカル5Gで実現可能となる。実証実験を行ったとかち村上牧場では、推定で約30分/棟の⼈⼿が解消される効果が見込まれるという。

5Gで始まる新たな挑戦

インダストリー4.0を掲げるドイツは、5Gの活用により、製造強国としての地位を確固たるものにしようとしている。その一方で、米国や中国、韓国も5Gに巨額の投資を行っており、特に中国は、産業政策「中国製造2025」で掲げた目標の実現のため、今後の製造業の基盤となるIT技術、5Gに注力している。社会インフラとしての「5G」の商用展開開始を前に、日本においても製造業界における新たな挑戦が始まっている。