デジタル技術革新に伴う第四次産業革命が進む中、ロボットや IoT、AI などの先進的ツールの利活用への期待が高まっている。人手不足の中で、効率性・生産性を高めるためには、こうしたツールの活用が欠かせない。今回は、こうした機器を通じた安全面の改善、そしてソフトウェアの安全性について取り上げる。

安全性を高めて生産性を向上

工場で事故が発生したり、機械が故障したりすれば、工場の生産性が低下する。IIoT機器の活用により、機械の状況をリアルタイムでモニタリングし、故障する前に点検・交換することで運用効率を高めたり、また作業員の健康状態をモニタリングすることで事故を未然に防ぐ効果が期待できる。コネクティッドデバイスによって得られる安全面のメリットには以下のようなものがある。

  • 機械にセンサーを取り付け、機械の状況をリアルタイムでモニタリングする。機械に故障の兆しー特に周囲で作業する作業員の安全に影響を及ぼすような故障の兆しがあれば、すぐに機械を止めるなどの対応をとることができる。また、完全に故障する前に部品の交換などを行うことで、より効率的な運用が可能となる。
  • 作業員にウェアラブルデバイスを装着させ、健康や安全状態をリアルタイムで確認する。鉱業や石油ガス業界では、センサーで周辺の気温の変化や湿度、有毒ガスなどを検知することで作業員の安全確保を行う取り組みが進んでいる。例えば、カナダ・バンクーバーでIoT/ウェアラブル機器を製造するVandrico Solutions社は、鉱山で働く作業員向けに、周辺の二酸化炭素や二酸化硫黄濃度を測定するウェアラブルデバイスを開発している。また、製造業などでも、作業員の血圧などを常時測定することで、事故につながるような作業を未然に防ぐことができる。例えば、米国MITが開発した安全靴は、一定以上の重量が踵に加わると振動で作業員に警告する仕組みになっている。
  • 事故があった場合、特に炭鉱の崩落やガス田での大事故など、作業員が内部に閉じ込められるような大事故が発生した際に、ウェアラブルデバイスによって作業員の現在地を特定し、救出計画を迅速に立案することができる。救助のスピードが生存率に大きく影響することを考えれば、位置が特定できることの恩恵は非常に大きい。
IIoTデバイス、ソフトウェアと安全性

このように、最新技術を活用することで製造業における安全性、ひいては生産性を向上させることができる。しかし、IIoTデバイスの利用によって新たにリスクが生じる可能性もある。コネクティッドデバイスが工業環境に溢れる現在、ソフトウェアによって制御されるものの数は飛躍的に増えた。数だけではなく、安全面で非常に重要なもの、例えば、航空機やロケット、化学工場や原発また、建物や公共の安全を管理するための警報装置、そして自動運転の車などもソフトウェアによって管理される時代になっている。2018年に発表された書籍、「クリックして皆殺し―高度につながる世界におけるセキュリティとサバイバル(Click Here to Kill Everybody – Security and Survival in a Hyper-connected World)」は、ソフトウェアで全てが管理される時代の安全面のリスクを描いている。 ソフトウェアの安全については、ソフトウェアそのものの質や安全性ではなく、サイバーセキュリティが議論の中心になることが多い。リナックス財団(Linux Foundation)のシニアディレクター、ケイト・スチュワートは、「ソフトウェア業界は、セキュリティリスクについては十分に理解し注意していますが、ソフトウェアの安全性については十分とはいえないと思います」と警告している。最近では、旧来のウォーターフォール開発に比べてリリースまでの期間が短く、開発途中での仕様・要件変更にも柔軟に対応できるアジャイル開発が多くのプロジェクトで採用されている。しかし、こうした手法は、厳重なテストや安全管理が必要な航空や工業、医療業界におけるソフトウェア開発のやり方とは異なる。 アジャイルで開発されたソフトウェアが、ますます多くの業界で利用されるようになった今、開発期間や柔軟性の確保のために安全性が犠牲になっていないかどうかに十分な注意が必要である。リナックス財団では、セキュリティと安全に重点を置いた、コネクティッドデバイス向けのリアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)の開発を目的としたプロジェクト、the Zephyr™ Projectを進めている。

安全管理手法をアップデートする必要性

また、安全対策の専門家は、ソフトウェアの専門家ではない。多くの業界の安全マニュアルで使われている用語は、20-30年前から変わっていない。ソフトウェアが大きな進歩を遂げる一方で、安全対策の進歩はそれに追いついていないのが現状である。例えば、ソフトウェアのアップデートが安全面に影響を与える可能性などは、従来の安全管理では想定されていない課題である。もちろん、重要性の高いインフラ施設などでソフトウェアアップデートを行う際には、何度も事前の確認を行うが、何度も更新を行うことで、ソフトウェアを開発した当初の想定から誤差が生じる可能性もある。 安全に関連する基準が、オープンソースになっていないというのも課題である。今、参照できる安全上のスタンダードは多くあるが、それらは皆、オープンソースではない。オープンソースでソフトウェアを開発するエンジニアは、安全基準を参照するために有料(例えば3000ドル)の基準を購入することをためらうかもしれない。こうした文化の違いも、ソフトウェアの安全性を向上させる試みの障害となりうる。こうした課題を解決するには、安全の専門家、規制・基準の専門家、ソフトウェアの専門家の協力を深める必要がある。