2050年には、世界の人口が90億人を超えるといわれており、国連食糧農業機関(FAO)は、同年までに世界全体の食料生産を70%増加させる必要があるとしている。食料生産に適した土地が限られる中で生産量を増大させるためには、生産性の向上が不可欠であり、ロボットやIoTなどの先端技術を活用して農地面積あたりの生産性を向上させる「スマート農業」が注目されている。

IoT・ビッグデータを活用したスマート農業

IoTやビッグデータ、ロボットやドローンといった先端技術を活用し、効率と生産性を高めるスマート農業には、以下のような利点がある。

  自動化による人手不足の解消・効率化

農業に関連する様々な作業を自動化することにより、人手不足に対応すると同時に効率化を実現する。日本には就農人口の減少が顕著であり、1960年には1454万人いた農業人口は、2015年には210万人まで減っている。こうした状況で、これまでと同様ないしそれ以上の生産量を得るためには、自動化による省力化、効率化が不可欠であり、農機の自動運転技術やロボットの活用に期待が集まっている。クボタが2020年1月に発表した自動運転農機「アグリロボ田植機NW8SA」は、一度、圃場(ほじょう:農産物を育てる場所)の外周を有人走行してマップすれば、その後は田植え機が走行経路を自動計算し、無人で田植え作業を行う。一般道と違い、センターラインなどの目標がない圃場では、GPSを活用し数cm以内の誤差で制御を行う。また、収穫後においても、収穫した作物の選果や箱詰め、荷物の運搬など様々な作業が発生するが、ここでもロボットや自動化技術の活用によって人手不足に対応し、効率化を実現することができる。自動化が進めば、きつい作業、危険な作業から解放されるというメリットもある。

  データを活用し、水や肥料、農薬の量とタイミングを最適化

農作物の収穫量や品質を一定以上確保するためには、天候や気象条件などに臨機応変に対応する必要がある。従来は、経験がものを言う分野であったが、上述のような就農人口の減少や高齢化、後継者不足から、経験を伝えていくことが難しくなっている。スマート農業では、様々なセンサーを用いて農地や作物のデータを取得し、得られた大量のデータから適切な圃場の管理を行う。必要な場所に、必要なだけ肥料や農薬を与えることで、無駄や環境汚染も防ぐことができる。また、野菜の収穫可能時期は、一定濃度の炭酸ガス(CO2)の量によりある程度予測することができる。そのため、炭酸ガスの量などを測定することで、収穫/出荷時期を予測することが可能になる。気象データを解析することで、栽培に関するリスクを予測することも可能になる。長野県高山村のぶどう農家では、気温と湿度、日射量、葉の濡れ具合などをセンサーで計測している。たとえば高湿で気温が20~24度の日が続けば、ブドウにとって厄介な病気の一つである「べと病」が発生しやすくなるが、こうしたデータを計測することで、病気の発生を予測し、それに応じて殺菌剤を散布するなどして、農作物への被害を抑えている。

トヨタが進める「豊作計画」

トヨタは2011年から農業ビジネスへの取組みを開始し、2014年から、農業用アプリケーションである「豊作計画」と、トヨタ独自の改善支援サービスを提供している。小規模農家や地主がバラバラに所有し、広範囲に分断して存在する水田を集約的に管理し、効率的な農作業を可能とするために開発したクラウドサービスである。現在、全国94の農業経営体に導入されている。これまでは、米・麦・大豆のみに対応していたが、昨年10月からの実証実験を経て、2020年1月からは、野菜・果樹・畜産などにも対応を開始し、今後は露地野菜やハウス栽培等での利用が見込まれる。また、受注・人員・生産・出荷・在庫など一連の情報を一元管理する新機能も追加され、生産計画の精度向上による廃棄ロスや出荷遅れの軽減、そして、人員計画の作成や管理負担の軽減などが期待される。

トヨタ車の製造工場で実践されている予防保全や、データの見える化による効率向上といった取り組みを農業に活かし、例えば、農業機械の稼働実績から点検更新時期やコストを管理することで、農業機械が繁忙期に故障しないように適切に管理したり、ハウス内の温度・湿度・CO2濃度などのデータを可視化し、栽培環境を見える化することで、計画の精度を高めたりすることができる。

海外における取組み例

農地面積が大きい米国では、上空から農作物の生育状況や土壌の状態を確認したり、適切な範囲に適切な量の農薬を散布したりするためにドローンが活用されている。センサー技術が向上したことで、害虫や病気を自動で検出することも可能になってきている。また、可視光や近赤外線で反射する光の波長を感知し、作物の生育状況や栄養状態、土壌の水分状況などを分析する取組みも進んでいる。2011年に設立された農業ベンチャー、FamLogsは、衛星画像から収集した土壌や農作物の状態を、蓄積したデータと照らし合わせて分析し、土壌の状態に合わせた適切な作付量や肥料の分量などを、農家にアドバイスするサービスを提供しており、現在では50,000以上の農家に利用されている。

また、スマート農業先進国のオランダでは、約8割にものぼる一般農家で、自動制御システムを搭載したコンピューターにより農作物に与える肥料や給水などを制御している。農地面積は日本の半分以下であるが、スマート農業により生産性の向上を実現した。2019年の農産物の輸出額は、前年比4.6%増の945億ユーロであり、米国に次ぐ農業輸出大国となっている。

拡大するスマート農業市場

2020年10月には、農業IoT、ソーラーシェアリング、6次産業化、植物工場など、農業を強くするための次世代の技術や製品が一堂に集まる第7回国際次世代農業EXPOが東京で開催される。インドの調査会社、Meticulous Researchは、IoTを活用した農業の市場、2019年から2027年まで平均で年14.1%成長し、2027年には市場規模が349億ドルに達すると予測している。世界の人口が増え続け、また一人当たりの消費カロリーも増加する中で、農業IoTへの注目はますます高まっていくと考えられる。