2019年12月に、中国の湖北省武漢市で「原因不明のウイルス性肺炎」として症例が最初に確認されて以降、新型コロナウイルスによる疾患(COVID-19)感染が中国以外にも拡大している。人の移動や物流に大きな制限が出る中で、感染拡大を防ぐため政府・民間ともに様々な対策が講じられている。本特集では、そうした対策の中でも、ロボットやドローンの活用により「人と人との接触を最小限に抑える」ことで感染拡大を防ぐ試みを紹介する。

ドローンによる監視・注意喚起

感染が広がり、外出禁止措置が実施されている地域では、市民に自宅に戻るよう促したり、マスク着用や手洗いを呼びかけたりするのにドローンが利用されている。スピーカーを取り付けたドローンを利用することで注意喚起の効率化を図るほか、人との接触を避けることで警察関係者の二次感染を防ぐ狙いがある。江西省宜春市では、赤外線カメラを搭載したドローンで街中を歩く市民の体温を上空から測定し、熱のある市民に自宅待機や病院での受診を指示するなどの対策が実施されている。また、農薬散布用のドローンを利用して、市街の消毒を行っている事例もある。中国のSNS、weiboでは、こうしたドローンの画像・映像が拡散されており、中には、人が集まるのを防ぐために屋外に置かれた麻雀卓をドローンが壊すシーンもある。中国のドローン製造大手の広州極飛科技(XAG)は、感染予防・抑制と消毒活動を行う「春雷アクション」を実施し、活動に参加したドローンユーザーには総額500万元(1元=約16円)相当の部品と保証期間延長サービスを提供している。

新型コロナウイルス対策で非常事態宣言を出されたスペインでも、警察がドローンで街路や公園を監視し、スピーカーから市民たちに警告を行う取り組みが始まっている。

AVGによる無人配送・除菌

人と人の接触を避けるテクノロジーとして、無人配送ロボットを活用しようという動きも広がっている。中国EC大手の京東(JD.com)は、2月から武漢市内で、「スマートデリバリーロボット」による無人配送を開始している。またIT大手の百度(Baidu)、は同社の自動運転オープンプラットフォーム「Apollo」と、運搬用の自動運転車開発の新石器(Neolix)が共同開発したスマート自動運転車を災害対応のために導入し、病院に食事を届けたり、消毒液を噴射し街の消毒を行ったりする作業に活用している。

また中国・杭州のスタートアップ、迅蚁(Antwork)は、地方自治体や医療機関と連携し、ドローンによる医療物資の輸送プロジェクトを開始した。Antworkはドローンと人工知能を融合して全自動化デリバリーシステムを構築し、ラスト1マイルの問題解決に取り組むベンチャー企業で、昨年にはスターバックスのコーヒーをドローンで届けるサービスで話題となった。今回は、武漢近郊、浙江省の新昌郡でドローンと無人ステーションを活用し、二次感染を防ぎつつ通常の道路での輸送よりも効率よく配送を行うことで、現場での人手・物資の節約を目指す。

2月末には、デンマークのロボット企業UVD Robotsと中国の医療機器サプライヤーSunay Healthcare Supplyが、中国の病院へのロボット供給で合意した。UVD Robotsが開発した除菌自動走行ロボットは、病院内を自動で走行し、病院スタッフや医療当局者の代わりに除菌作業を行う。これにより、人員の感染リスクを下げることが期待されており、今後2000か所以上の病院に導入さえる予定だという。

オンライン診療・ロボット診療

また、インターネットを介した遠隔医療、オンライン診療の需要も急増している。京東集団傘下のヘルスケア企業、京東健康(JDヘルス)は、ウイルス流行が始まって以降、同社のプラットフォーム上での1カ月当たりの診療件数が、それまでの10倍の200万件に増えたと発表している。大手保険会社が運営する医療アプリ、平安好医生(Ping An Good Doctor)の登録者数が昨年9月に3億人を突破するなど、中国では新型コロナウイルス流行以前からオンライン診療の需要が伸びており、遠隔医療市場の規模は、今年、2000億元(約3兆円)に急成長するとの予想もある。新型コロナウイルス専門病院として武漢に急遽建設された雷神山医院に対しては、清華大学や、華為(Huawei)、聯通(China Unicom)などの民間企業が、高画質の医療画像など大容量のデータを高速で送ることができる5GやAIによる画像診断など、IT面での支援を行っている。 

また、病院での二次感染を防ぐため、対面診療もロボットを介して行う試みもある。米国では、武漢への渡航歴があり1月中旬に陽性診断を受け入院した患者の診察に、聴診器搭載のロボットが利用された。患者が搬送されたワシントン州の病院は、2014年にエボラ出血熱の感染が広がった際に感染症に対応するためのプロトコルを作成しており、今回、同プロトコルに沿った対応が実施された。患者は外部と隔離された部屋で、ロボットに搭載されたスクリーンを介して医者とやり取りを行う。

AIによる早期発見・警戒

伝染病の早期発見や警戒にAIを活用する動きも注目されている。カナダのスタートアップ、BlueDotは、ビックデータをAIで解析することにより、WHOが警告する前に武漢における危険信号を察知した。WHOが新型肺炎のクラスター発生に関する声明を出したのは2020年1月9日であるが、BlueDotは、公的機関の発表やデジタルメディア、世界の航空会社の発券情報、家畜の健康状態に関する報告、世界各地の人口動態といったデータを15分毎に取り込み、機械学習することで、12月30日に「武漢の市場付近で見慣れない肺炎のクラスターが発生している」ことをユーザーに警告している。

またBlueDotは、新型コロナウイルスの流行が中国の外に広がる経路を予測することにも成功している。航空券の発券情報などをもとにBlueDotが作成した都市リストの上位に含まれるバンコクや香港、東京、ソウル、シンガポールなどでは、実際に世界的流行の早期段階で患者が確認されている。BlueDotの創業者は、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)流行から着想を得たという。これまでにも、2016年にはジカ熱がフロリダで流行する6か月前にその危険を察知しており、また2014年には、当時西アフリカで流行していたエボラ出血熱が地域外にも拡大することを予見していた(最終的には、アメリカでも患者が発生している)。

AIを活用して、危険なウイルスが動物からヒトに感染する前にそれを見つけようとする試みも始まっている。ヒトに感染するか、感染の可能性があるウイルスのうち、特定されているものはほんの僅かで、世界には167万種の未知のウイルスがあるという。The Global Virome Projectは、この未知の167万種をできるだけ多く特定し、人間にとって脅威となるウイルスについては詳細な分析を進めることを目的とする。今回の新型コロナウイルスのように、人への感染が明らかになってから対策をたてるのではなく、人にとって危険なウイルスを事前に特定し、ワクチン開発などを進めることで被害を抑えようとするものだ。

3月11日、WHOのテドロス事務局長は、新型コロナウイルスの流行は「パンデミック(世界的な大流行)とみなせる」と表明した。欧州や米国でも感染が拡大し、世界経済への深刻な影響が予想される状況ではあるが、感染の拡大防止や早期発見のため、ドローンやロボット、AIなど、製造業においても利用が進む技術が効果を発揮することを期待したい。