自動運転からスマートマニュファクチャリングに至るまで、AIは自動車業界の形を大きく変えようとしている。自動車業界に欠かせない存在となったAIについて、「自動運転とAI」と、「自動車の設計や製造とAI」の2回に分けて特集する。

自動運転をめぐる国内外の動向

これまで国内では、日産自動車などが、システムが運転を補助する「レベル2」(部分的自動化)の自動車を発売しているが、レベル2までは、運転の主体は人間の運転手であり、システムはあくまで補助的な役割を果たす。さらなる自動化の実用化に向け、2019年12月に、国土交通省が保安基準の改正案を公表し、一定の条件付きで自動運転できる「レベル3」が今春にも公道での自動運転も可能となる見込みとなっている。ホンダは2020年夏に高速道路の渋滞時にシステムが主体となって運転を委ねられる技術を搭載した高級セダン「レジェンド」を発売する予定であり、実現すれば、国産車では初の、システムが運転の主体となる「レベル3」自動運転となる。また、トヨタ自動車は、東京五輪・パラリンピックで、選手村内を無人で走行する自動運転車「e-Palette(東京2020オリンピック・パラリンピック仕様)」を提供する予定となっている。これは、自動運転制御ハードウェアおよびソフトウェア、カメラやLiDARなどのセンサーを搭載し、高精度3Dマップと運行管理により「レベル4」相当の自動運転を実現する。

海外では、米グーグル系の自動運転開発企業であるウェイモが、米アリゾナ州フェニックスで自動運転タクシーの有料商用サービス「ウェイモワン」を開始しており、自動運転の実用化で先行している。ウェイモワンは、専用のスマートフォンアプリを立ち上げて乗車場所と目的地を指定すれば、利用者が指定した乗車場所まで自動運転車が自走して利用者を乗せ、目的地まで運んでくれるサービスで、「レベル4」の自動運転に相当する。サービス当初は、不測の事態に備えるためにセーフティドライバーが同乗していたが、2019年11月には、アリゾナ州で完全無人のサービス提供を開始した。

また、独フォルクスワーゲンは、自動運転車の実現を目指し、新会社「フォルクスワーゲン・オートノミーGmbH」を2019年に設立した。レベル4以上の自動運転研究所の機能を有する本社に加え、2021年には中国とシリコンバレーに子会社を設立し、レベル4以上の自動運転車の一般販売を目指す方針としている。

中国では、2017年に工業情報化部が「コネクテッド車ネットワーク構築の国家基準」、2018年には「知能自動車路上試験の国家標準」が発表されるなど、自動運転車の実用化に向けた法整備が進む。2019年には、自動運転開発に取り組むネット検索大手・百度に対し、北京市内における公道走行実験に関し、「レベル4」に相当する「T4」のライセンスが付与されていり、同年9月には、湖北省武漢市で、百度など数社に国内初となる自動運転サービスの商用ライセンスが付与されている。

自動運転を実現するAI

また、安全に自動運転を行うためには、そうして収集した周辺状況やその変化に対し、システムが常に、そして即時に対応可能である必要がある。さまざまなデータを総合的に集めた上で走行ルートの判断を行い、ハンドルやブレーキに相当する走行操作をコントロールするのがAIである。AIはセンサーが集めたデータやクラウド通信で取得したビッグデータ、カメラなどがリアルタイムで映し出す膨大な数の画像データなどを瞬時に分析し、ブレーキやステアリング操作など自動車の挙動をコントロールする。つまり、高度な自動運転の実現には、高度な解析能力と処理能力を持ったAIシステムが不可欠といえる。

ここで注目されるのが、深層学習(ディープラーニング)である。自動運転では、センサーが映し出す無数の映像の中から、歩行者や自動車、走行レーン、白線、信号、標識などを識別し、どのように自動車を制御すべきかを即座に判断する必要がある。一方、実際に走行する自動車のセンサーが映し出す画像は一枚一枚異なり、わずかな時間でも膨大な数の画像データが生み出される。「自動車」「歩行者」「信号」についての基本データが存在していても、それと全く同じ色や形をしたデータは存在しないため、類似したものを当てはめ特定していく作業が必要になる。そこで、大量のデータをもとに、AI自らがデータの特徴を分析し、応用範囲を広げていく深層学習が有効になる。これにより、角度の違い、光の当たり具合で変化する輪郭や色などを経験として学習し、人間の脳と同じように瞬時に認識した物体を解析することができるようになる。

こうした深層学習による処理には、高い処理能力をもったコンピュータが必要となるが、米半導体大手のエヌビディアなどが開発するリアルタイム画像処理に特化したGPU(Graphics Processing Unit)の高性能化により実用化が進む。エヌビディアは、2019年12月に、1秒あたり200兆回の演算能力を持ち、「レベル 5」自動運転にも対応する、自動運転車向け新型プラットフォーム「NVIDIA DRIVE AGX Orin」を発表している。

実用化に向けた課題

このように、完全自動化の実現に向けた技術的な準備は整いつつある。一方で、「トロッコ問題*」のような倫理的な課題に対する社会的なコンセンサスはまだ得られていない。ブレーキをかけても事故は避けられないような状況で、AIに判断を委ねることができるのか、またその場合の責任は誰が負うのか、という問いには正解はなく、また、国や文化によって選好が分かれる可能性もある。自動運転が実現すれば、交通事故が減ることが期待されるが、実用化に向けては、技術面だけでなく、社会・倫理面の課題の解決が必要となる。

次回の特集では、自動車の設計や製造に利用されるAIについて取り上げる。

<トロッコ問題とは>
線路を、制御を失った無人のトロッコが暴走している。その進行方向には分岐点があり、トロッコは分岐器によってA方向に行くこともB方向に行くこともできる。分岐点には人物Cがいて、分岐器を動かしてトロッコの行き先を決めることができる。A方向の線路上には5人の作業員がいて、B方向の線路上には1人の作業員がいる。もしCが分岐器を動かさなかったことでトロッコがA方向に進んだら、Cは消極的に5人の死を選択したことになる。もしCが分岐器を動かしたことでトロッコがB方向に進んだら、Cは5人を生かすために積極的に1人の死を選んだことになる。この場合、Cは分岐器をどのように動かすべきだろうか。
トロッコを暴走する自動運転車に置き換えた場合、AIはどのような判断をすべきだろうか。また、自動運転車の開発者は、こういう状況でどちらに突っ込むことを正解として教えるべきなのだろうか?