前回の特集では、AIを活用した自動運転技術について紹介した。今回は、自動車の生産や材料開発におけるAI技術の活用を取り上げる。

ロボットと人の共同作業

労働力不足や5G通信の実用化といったトレンドを背景に、製造業でのスマートファクトリー化への取り組みが加速している。自動車業界においても、AIを活用した品質管理や予防保全の導入、AVGによる省力化といった取組みが世界で進んでいる。

組み立てラインでは、人間の作業員の動きをアシストする作業支援アシストスーツ(ウェアラブルロボット)を装着した作業員やロボットによって作業が行われている。例えば現代自動車は、2018年から同社が開発した作業支援アシストスーツ、Hyundai Vest Exoskeleton (H-VEX)を組立て現場で利用している。総重量は1.6kg のH-VEXには2本の人工脚が付いており、作業員は、腰、腿、膝にベルトを装着してH-CEXを身体に固定して作業を行う。H-VEXは最大150kgの重量に対応しており、作業員がかがみこんだ時の膝などへの負担を軽減する仕組みになっている。

また、技術の進化により、ロボットはより複雑な作業をこなせるようになっただけではなく、周囲で作業する人間の動きを把握し、衝突や事故が起きないように作業できるようになった。これまでは、安全のためにロボットが作業する区画と人間が作業する区画を分ける必要があったが、人とロボットが共同で作業できるようになったことで、工場をより柔軟に設計できるようになっている。

品質管理や予防保全にAIを活用

また、AI技術を品質管理や溶接加工に活用する事例も増えている。ドイツの大手自動車メーカー、アウディは、プレス工場で製造する板金に発生するひび割れ(クラック)の検査にAIを活用している。これまで、板金のひび割れ検査は、従業員による目視と画像認識ソフトウェアによる内視鏡撮影画像の判定によって行われていた。人力の目視検査には大きな手間が発生することはもちろん、画像ソフトによる検査でも、部品の隙間に内視鏡を通す作業が必要となる。また、光の具合によっては、誤判定が発生するという問題があった。そこで、アウディは機械学習による画像認識で、ひび割れを自動検知するシステムを新たに開発した。同システムの開発にあたり、数百万枚にものぼるサンプル画像を収集し、微細なひび割れをピクセル単位で確認してマークした上で、それらをAIに学習させた。これにより、光の当たり具合の違いによって生じる差異があっても、ひび割れを正確に検知し、わずか数秒で検査を完了できるシステムが誕生した。アウディは、ドイツのインゴルシュタットにあるプレス工場で、同システムを利用したひび割れ検査の試験を実施している。またアウディは、板金以外の部品についても、現在実施されている目視検査を、順次、AIによる検査に置き換えていく方針であるという。

BMWのミュンヘン工場では、板金にレーザー刻印を行っている。これにより、製造工程を通して、車のどの場所にどの板金が使われたのかを追跡することができるシステムが導入されている。プレスを行うときの温度やスピード、厚さなども同時に記録されるため、部品に何か異常が出た場合には、何が原因だったのかを速やかに確認できる。また、組立作業をAIでチェックすることで、同様の作業と比べて異常(部品の接合の傾きズレなど)があった場合に、すぐに把握できる体制となっている。また、溶接ロボットの600以上のトングには、全てセンサーが取り付けられており、それぞれのトングの状況を細かく確認し予防保全を行っている。製造中にトングに故障が発生すると、交換のために製造ラインを止める必要があり大きなロスとなるが、トングの摩耗状況などをシフトごとに確認し、メンテナンスを行うことで故障を未然に防いでいる。

AIによるデザイン

AIが利用されるのは、製造現場だけにとどまらない。BMWの子会社、Designworksでは、ジェネレーティブデザインを利用し、ホイールリムや車の座席のデザインを行っている。ジェネレーティブデザインとは、素材の種類・重量・コストなど、デザインの制約となる条件を設定し、AIが基本となるデザインをもとに、短時間でさまざまなデザインを生成する手法である。AIがゼロから設計するわけではないが、基本デザインや諸条件をもとに、人間の発想や習慣にとらわれないデザインを得ることができるため、NASAの宇宙着陸船のプロトタイプ設計などにも利用されている。

AIを活用した材料・素材開発

デザインに加えて、材料・素材の開発研究においてもAIの活用が始まっている。トヨタ自動車は、2016年1月、AI技術などの研究・開発を行う子会社Toyota Research Institute(TRI)をシリコンバレーに設立している。2017年3月には、TRIがAIを活用した材料開発を加速し、今後4年間で3500万ドルを投資することを発表している。米国のスタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学、ミシガン大学、ニューヨーク州立大学バッファロー校、コネチカット大学のほか、英国の材料研究開発企業Ilika社などと協力し、以下3つの研究領域をテーマとして、電池材料や燃料電池の触媒に使用する新材料の開発期間を短縮することを目指している。

●バッテリーや燃料電池用の新材料、モデルの開発
●新材料の設計開発に向けた、機械学習やAI技術、情報科学理論の活用
●シミュレーションや機械学習、AI技術、ロボティクス技術を活用した自動材料探索システム

こうした研究開発を通じて、「トヨタ環境チャレンジ2050」の取組みの1つである、新車平均CO2排出量を2010年比で90%削減する目標達成につなげることが狙いである。なお、TRIは、材料開発のほか、自動運転技術を通じたクルマの安全性向上やモビリティ技術を活用した屋内用ロボットの開発も行っている。

素材の開発、デザイン、製造から運転まで、AIは自動車産業とは切り離せないものになりつつある。BMWは、2018年の世界最大のモバイル関連見本市、MWC2018でBMW i3をベースとしたレベル5の完全自動運転車のプロトタイプを公開した。完全自動運転が実用化される時には、自動車製造はどこまで自動化されているか、これからも注目である。