2019年9月、第28回世界経済フォーラム・アフリカ会合が、南アフリカ共和国のケープタウンで開催された。世界経済フォーラムといえば、毎年スイスで開催される「ダボス会議」が有名であるが、これは、世界経済フォーラムの年次総会にあたる。9月のイベントは地域会合であり、テーマは「第四次産業革命における、包摂的な成長と未来の共有」であった。今回の特集では、普段、インダストリー4.0やIIoTを巡る議論で忘れられがちなアフリカの動向を紹介する。

アフリカの経済状況

アフリカ経済は、2000年代の資源ブームに乗って高成長を遂げた。2009年以降はリーマンショック、中国経済の減速、資源の価格下落などを背景に経済が減速したものの、2017年以降は再び上昇傾向にある。GDP成長率は、2018年は3.1、2019年には3.4%であり、2020、2021年にはそれぞれ3.9%、4.1%に加速する見込みとなっている(2020年、2021年の予測値は、アフリカ開発銀行による新型コロナウィルス流行前の見込み数値。アフリカ連合は、パンデミックにより2020年にはマイナス成長に落ち込むとの予想を発表している)。

また、忘れてはならないのが、アジアに次ぐ巨大な市場としてのアフリカの存在である。2018年のアフリカの人口は、世界の17%の12億7,600万人であった。2030年には、世界の5人に1人がアフリカ人(約17億人)、2050年には4人に1人(約25億人)となる見込みであり、人口減により国内市場の縮小が予想される日本企業にとっても、重要な市場となりうる。一方で、増加する人口に対する雇用の創出、特に若者の失業対策は、アフリカ各国の政府にとって優先度の高い課題であり、これがロボットの導入や自動化の推進といったインダストリー4.0の推進の障害となる可能性がある。アクセンチュアは、2018年の調査で、自動化の導入により、南アフリカで570万人-就業者の35% ―が失業する可能性があると警告している。また、新型コロナウィルス流行により外国直接投資が減り、アフリカでは2000万が失業するとの予測もある。

インフラ未整備エリアでのドローン活用

アフリカの製造業にとっての課題の一つ目は、インフラである。製造業の成長には、道路や鉄道、電気といったインフラの整備が不可欠である。アフリカ大陸は広大で、人口密度は日本の8分の1程度。アフリカ横断道路や、国境を越えた地域経済回廊など、大陸・地域レベルでインフラの整備を進める動きもあるものの、依然として高い間接費(輸送、エネルギー、セキュリティ費用等)、特に輸送コストが経済成長の阻害要因となっている。デジタル化、スマート化の実現には、インターネット環境も必要だ。

その反面、こうした環境だからこそ、新しい技術、例えば道路や橋など既存の物流インフラを必要としないドローンなどのインパクトは大きい。世界で最初に、全国規模でドローンによる配送サービスを開始したのがルワンダであることはあまり知られていない事実である。 同国では、米国のスタートアップ企業、Ziplineにより、2016年10月から輸血用血液など救急医療品をドローンで配送するサービスが始まっている。Ziplineは、現在ルワンダに加えてガーナでもサービスを提供しており、通常は自動車とフェリーを乗り継いで6時間かかる場所で、片道45分での配送を実現するなど、大きな成果を挙げている。また同社は、4月17日より、ガーナでCovid-19の検体のドローン輸送も開始している。

農業のデジタル化

アフリカでは、近年の急激な携帯電話普及に伴い、農家のデジタル技術やデジタルサービスへのアクセスが増加している。2019年9月に、「デジタルトランスフォーメーションの活用によるアフリカの持続可能な食料システムの促進」をテーマに開催された、第9回African Green Revolution Forum 2019には、89カ国から約2,400人が参加するなど、同分野への関心が高まっている。2030年までには、2億人以上が作付けのアドバイスや天候などの情報提供、農作物売買のためのマーケット連携サービスやサプライチェーン管理などの分野で、様々なデジタル技術を農業に活用すると予想されている。

カメルーンのスタートアップAgrix Techは、AIを活用して作物の病害を早期に見つけ、適切な対策を知らせるモバイルアプリを提供している。作物をスキャンすれば、AIが病気の種類や対策を音声かテキストで教えてくれる仕組みだ。識字率が高くない地域での展開を見据え、様々な現地語の音声でアドバイスを提供してくれるのが特徴である。NuruやPlantMDなど、アフリカ各地で類似のサービスも生まれている。

アフリカで加速するAI研究

こうしたソリューションの開発を支える研究所や研究者のコミュニティも拡大している。昨年4月、米Googleは、ガーナの首都アクラに、アフリカで初となるAIリサーチセンターを開設した。現地の大学や研究機関などと共同し、AIを活用して農業や医療、教育といった分野の課題を解決することを目指している。

チュニジアのスタートアップ、InstaDeepは、AIの基礎研究開発と、欧米大手企業向けのAIアプリケーション提供を行っている。アフリカにおけるAIの普及をミッションとする同社は、昨年、アフリカのAI分野のスタートアップとしては最高額となる700万ドルの資金調達に成功したことでも話題となった。またケニアでは、AIとデータサイエンスのネットワークAIKenyaが2017年に設立されている。AIKenyaは、機械学習とデータサイエンスのスタートアップや研究者を集めて、AIに関するイベント、ワークショップ、およびプロジェクトの展示会などを行っており、会員数は3000人を超えている。

アフリカのインダストリー4.0実現に向けて

道路などのインフラや、先進国と比べて低いインターネットの普及率、また、現地の技術者の能力など、アフリカの産業が抱える課題は多い。一方で、既存のインフラが無いからこそ、従来の仕組みに捕らわれず、先端技術を積極的に導入する機会も存在する。銀行口座ではなくM-Pesaのようなモバイル送金サービスが普及するのはその好例といえる。

昨年の世界経済フォーラム・アフリカ会合では、アフリカのスタートアップ企業を支援する 「Africa Growth Platform」や、ドローンコンテストの開催などが発表された。1993年以来、アフリカ開発会議を主導する日本政府も、アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ「ABEイニシアティブ」を進めてなど、課題解決のための取組みが進んでいる。今後、人口ボリュームでも経済規模でも存在感を増していくアフリカにおけるデジタル化やインダストリー4.0の動向には、今後も注目が必要だ。