新型コロナウィルス流行により、5G普及が鈍化

4月17日、中国国家統計局は、2020年第1~3月の実質GDPは前年同期比6.8%減となり、四半期ベースの統計が記録されている1992年以降初めてのマイナス成長となったと発表した。また、米商務省が4月29日に発表した速報値では、1~3月期の成長率は、季節調整済の前期比年率で4.8%のマイナスとなった。同時期の民間設備投資も8.6%減となっている。議会予算局は、4~6月期の成長率は、年率換算ならマイナス39.6%に落ち込むと予測している。

新型コロナウィルスのパンデミックによる影響は、5G普及にも大きな影響を与える。基地局を設置する工事事業者が感染防止のため作業できないことで、基地局の設置工事の進捗に影響が出るためだ。NTTドコモの吉澤和弘社長は、4月28日に開催されたオンライン決算会見で、新型コロナウイルスの感染拡大が続いた場合、2021年6月末までに1万局設置、とした5G基地局の拡大計画を達成することが困難であるとの認識を示した。米連邦通信委員会(FCC)は6月末に予定していた民間広帯域無線サービス周波数競売を1ヵ月延期した。また、スペインやフランス、オーストリアにおいても、5G周波数の競売の延期が発表されている。英国では、5G通信システムが新型コロナウイルス流行に関係しているとの風説により、複数の携帯基地局が放火される事件まで発生しており、世界的な5G普及に向けた動きが、Covid-19流行により遅延するとの懸念が拡がっている。景気が悪化すれば、10万円を超えるような5G対応スマートフォンの売れ行きが低迷することも予想される。

コロナ対策として注目される5G

その一方で、新型コロナはテレワークやオンライン診療など、ネット関連サービスを急速に発展させるきっかけとなっている。通信速度が現行規格の約100倍という「高速大容量」に加え、「超低遅延」「多数端末同時接続」といった5Gの特長を活かし、遠隔医療やオンライン教育などのコロナ対策に活用する動きも活発化している。

中国・武漢の仮設病院には5Gネットワークが導入され、医療従事者がハイビジョンのビデオ通話で会話できるようになった。チャイナテレコム(中国電信)が開発した遠隔診療プラットフォームには、全国から約3600の医療機構が登録し、58万人の診療を行った。ドローンやロボットが、警備や体温検査、消毒、物資の配送といった用途に利用される事例も増えている。

感染流行の第二波、第三波が危惧される状況においては、現在世界各地で実施されている外出禁止や自粛措置が解除されたとしても、ソーシャルディスタンス(社会的距離)を保つことが求められる状況は当面続くと思われる。感染リスクをできるだけ押さえながら経済活動を再開させていくため、テレワークは今後も導入が進むと予想されるが、テレワークの効率や生産性向上には、安定・高速のインターネット回線が不可欠である。製造業においても、ロボティクスやIIoTへの投資が加速することを踏まえれば、長期的には5Gへの投資は拡大すると考えられる。451リサーチ社による報告書、「COVID-19と5G: 短期的な痛みと長期的な前進(”COVID-19 and 5G: Short-term Pain for Long-term Gain”)」においても、競売の延期などにより短期的に普及が遅れるものの、長期的には新型コロナウィルス流行により5G導入は加速するとの見通しが示されている。米国では、5Gインフラ整備が遅れることが予想される地方での普及促進のため、90億ドルの基金を設置することが提案されているが、「コロナ後」の5G投資で特に活発な動きを見せているのが中国だ。

中国は5G投資を加速

武漢の封鎖を4月8日に解除するなど、欧米に先立ち経済活動を再開させている中国では、5G関連事業を景気てこ入れ策の柱に位置付けている。3月4日に開催された中央政治局常務委員会は、5G通信網やデータセンターなど「新しいインフラ」の建設を加速させる方針を固めた。こうした政府の動きに呼応し、中国の通信大手3社(中国聯通: チャイナユニコム、中国電信: チャイナテレコム、中国移動: チャイナモバイル)は、前期の4倍となる1800億元(約2兆8千億円)を5G関連に投資すると発表している。

中国国際経済交流センターなどによる「中国5G経済報告2020」は、2020年の5G商用化への投資総額は9000億元(約14兆円)に達し、54万人の雇用を創出するとしている。また、中国情報通信研究所は、2025年には5Gネットワーク建設への投資累計は1兆2000億元(約18兆円)に達し、民間の投資も3兆5000億元(約52兆円)を超えるとの見通しを発表している。

5Gが米中対立の焦点に

欧米経済がロックダウンで停止する中でのこうした動きは、5Gを巡る米中の覇権争いを更に激化させる可能性がある。米トランプ政権は、4月9日にチャイナテレコムに与えた事業免許の取り消しを検討すると発表したのに続き、19日には、中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)に対する輸出禁止措置を強化すると発表した。米国は通信機器や通信サービスを手掛ける中国企業への警戒を一段と強めており、ポンペオ国務長官は、4月17日のFOXビジネス・ネットワークのインタビューで、「中国共産党が透明で開放的な対応を取らず、データを適切な方法で扱わなかったことを踏まえると、移動通信システム構築に当たり、多くの国が(中国製の機器を採用するかどうかについての)対応を再考すると強く確信している」と述べている。各国が経済活動の再開の道筋を探る中、5Gをめぐる活動は、新型コロナウィルスだけでなく、米中の政治動向にも大きく影響されると考えられる。