新型コロナウィルス流行で加速する働き方の変化

人事部門の管理職800人を対象に、米調査会社ガートナーが3月17日に実施した調査では、対象企業や団体のほぼ9割が従業員に在宅勤務を奨励または義務付けていることが分かった。また、ほぼ全ての企業と団体が、従業員の出張を取りやめている。企業がリモートワークを推進し、個室型のオフィスを廃止して、オープンなレイアウトを採用するようになったのは、新型コロナウィルス流行以前からのトレンドであり、ビジネス用のチャットツールのスラック(Slack)やテレビ会議アプリのズーム(Zoom)も、パンデミックで新たに誕生したサービスというわけではない。しかし、Covid-19の流行により、オフィスから在宅への流れは急加速している。経済活動が再開しつつある欧米や日本でも、在宅勤務を全面的に、あるいは部分的に継続する企業は多い。IBMやBestBuyなど、在宅勤務を試験導入したものの、オフィス勤務に戻した企業もあるが、今後は、在宅勤務をある程度取り入れた働き方が、「ニューノーマル」として定着していくことが予想されている。ハーバード大学が2019年に実施した調査では、好きな場所で仕事をする自由を与えられた人々のほうが生産性が高い、という結果も出ている。

「三密」回避に苦戦する製造業

一方で、製造業においては、実際にモノを作っている生産現場だけでなく、生産管理や技術、また、特定の機器や設備を利用しないと業務が困難な品質管理や実験などの業務があり、その特性上、在宅勤務を取り入れることが難しい。開発や設計は、生産現場に比べればそうした物理的な制約は小さいものの、情報セキュリティの懸念からデータを社外に持ち出せない、あるいは、設計や解析ツールを動かすのに必要な高性能PCが自宅にない、といった事情で、在宅勤務の導入が遅れているという事情がある。

しかし、製造現場で作業員がまとまって作業するような環境は、感染リスクも高い。一人でも感染者が出れば、工場の閉鎖や消毒、濃厚接触者の確認などの作業が生じ、生産はストップしてしまう。日本では緊急事態宣言が全国で全面解除されているが、メーカー各社は工場の稼働停止や生産縮小を続けている。例えば、トヨタ自動車は4月から実施している国内の完成車工場の生産調整を6月以降も続ける方針で、12万台以上の減産を行う。生産現場における「三密」の回避が困難であること、また需要の先行きが不透明であることもあり、正常化への道筋はたっていない。

Covid-19で加速するイノベーション

そんな中でも、ウィズコロナ/アフターコロナ時代を見据えて、テクノロジーを活用しDXを進めている企業もある。例えば、鹿島建設は、大阪でのビル新築工事で、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を活用したデジタルツインを実現している。同社は、建物の企画・設計から施工、竣工後の維持管理・運営までの各情報を全てデジタル化し、それらを仮想空間上にリアルタイムに再現するデジタルツインを推進しており、モデル事業となる大阪の事例では、ビル風シミュレーションによる周辺環境への影響評価や、仮想空間と現実空間を複合させるMR(Mixed Reality)技術を活用した、モジュールモデルと実際の施工状況の確認などを行う。また、ビルの竣工後も、点検などから得られた様々な情報を集積し、ビッグデータ化し、企画・開発へのフィードバックを行う予定になっている。また、IoTベースの「溶接キット」と、クラウドを利用したITシステムの導入により、リモートでの作業に切り替えて生産活動を継続している東京・江戸川のクリエイティブワークスのように、町工場レベルでの取り組みもある。

ResearchAndMarket社が、Covid-19の影響を踏まえて2020年のスマートマニュファクチャリング市場規模を下方修正したように、短期的なマイナスの影響が不可避であるものの、長期的には、Covid-19によって製造業の自動化・スマート化が促進されるとみられている。例えば、ロボットを導入すべき領域として、以前から「3D(Dull、Dirty、 Dangerous:だるい、汚い、危険)」という概念があったが、新型コロナウィルスの流行により、「感染防止(Disease prevention)」が加わり、導入領域が4Dに拡大している。Forbes誌が、「Covid-19の影響により、製造業における5年分のイノベーションが今後18ヵ月で起きるだろう」と予測するなど、デジタル技術やクラウド、自動化といったテクノロジーを駆使する動きは今後加速していくとみられている。

そして、こうした流れを後押しする動きも活発化している。欧州委員会は、イノベーションを助成する機関である「欧州イノベーション会議(EIC)」を通じ、Covid-19と戦うための技術に対して1億6400万ユーロの資金を提供してスタートアップや中小企業での技術開発を促進している。また、日本の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業である「AIフロンティアプログラム」では、AIを活用することで「COVID-19による社会変化によって発生する課題」を解決できる人材を育成するための特別枠として、追加募集を2020年6月11日まで行っている。同枠に選ばれた対象者には、1人につき最大300万円相当の研究開発費用が支援される予定である。

情報提供、共有に向けた取り組みも進む。例えば4月27日に、ロボット専門商社のInnovation Matrix社が「Covid-19 と 自律走行ロボット」と題したオンラインセミナーを開催し、アメリカでのCovid-19流行の現状やロボット業界動向、そして同社が取り扱うモバイルロボットの紹介を行った。日本でも、5月27日にi Smart Technologiesと旭鉄工が、「旭鉄工の考えるアフターコロナに向けた製造業経営」をテーマにオンラインセミナーを開催している。旭鉄工の工場稼働は、緊急事態宣言が発令された4月に、同2月に比べて約4割減となったが、オンラインセミナーでは、同社での取組みや、Covid-19に対して製造業がどういう手を打つべきかについて説明している。

市場環境が激変する中、変化への適応力に欠ける企業が淘汰される時代に到来している。デジタルツインの活用やDXの推進により、変化に対する適応力を高め、競争力を強化することがますます重要になっていくだろう。