*本原稿は、2017年7月12日の「Tech Factory」で 掲載された記事「IIoT時代にこそ、日本のモノづくりが世界で強みを発揮する(5)」を一部加工し、転載しています。

「IIoT(Industrial IoT)」を実現させ、新たなモノづくりを創造するためには、現状の生産設備の在り方を見直す必要がある。今回は、ヤマハ発動機のIM事業部でロボットビジネス部長として活躍している村松啓且氏に、日本が目指すべきモノづくりへの取り組みについて話を伺った。

国内ではフィールドバスの標準化の遅れや、特定メーカーの機器に対する依存度の高さなどにより、“つながる工場”の実現が遅れている。このような課題を解決するための仕組みとして、生産の自動化を短期間で効率的、かつ低コストで実現する統合制御型ロボットシステム「Advanced Robotics Automation Platform」を開発したヤマハ発動機の狙いとは何か。

ソフトウェアを軽視してきた日本の製造業が抱える課題

  • ヤマハ発動機では、2016年末に統合制御型ロボットシステム「Advanced Robotics Automation Platform」を開発されましたが、その開発に至る背景には、どのようなことがあったのですか。

村松氏 モノづくりの工程で大切なことは、その手段ではなく目的です。本来は生産工程を自動化して、最小限のリソースで素早くかつ効率的にモノづくりを実現することが重要です。しかし、実際の生産現場では、生産設備を開発するたびにプログラミング言語や通信規格が違ったり、さらには開発ツールの使い方が異なっていたり、ということが起こっています。“帯に短し、たすきに長し”というようなことが起こっているのです。つまり、生産設備を開発する際、従来の仕組みにおいては既定の領域なので得意であるが、全く新しい取り組みには大きな負担がかかるため、さまざまな制約の中でやむなく個別最適になってしまうのではないでしょうか。

  • 開発するたびに、規格は違う、言語はそろっていない、ツールは変わるという状況に対し、これまで日本の製造企業は、なぜ疑問を呈さなかったのでしょうか。

村松氏 日本の製造業における生産設備の製作過程には、メカ設計、電気設計、ソフトウェア設計に目に見えない壁と作業の順番が決まっている部分があるような気がしています。どちらかといえばメカ的な構想が先行し、ソフトウェア設計製作は後回しになる傾向です。その結果、ソフトウェア作成時にはつじつま合わせに時間を取られ、より高度な機能の実現に支障を来すことも少なくありません。

  • しかし、このままの状態では今後の発展がないということが、最近では、徐々に見えるようになってきたということですか。

村松氏 ソフトウェアの重要性が業界で浸透するようになったのは、IoTやインダストリー4.0が言われ始め、つまり人からロボットへの置き換えによる自動化だけではなく、従来の大量生産と変わらないコストと時間で、かつ過剰な製品在庫を抑えつつ多品種少量生産を実現する重要性が高まったからです。

そのため生産設備には、よりインテリジェントな機能と汎用性、そして生産性が同時に求められるようになりました。また、これらの要求を具体的な設備に置き換えてみると、動作に必要なアクチュエーターや画像認識カメラ、センサーなどの数も結果的に大幅に増えるということになります。これらの全てを駆使し、いろいろな仕掛けを作らなければならなくなります。そうすると、何が一番大切で大変なのかというと、やはりソフトウェアなのです。

重要なのはつなげることではなく、つなげた上で新たな価値を生み出すこと

ソフトウェアの重要性に気付き、日本の製造業は“つながる工場”の実現に向けて動き出した。しかし村松氏は、「大切なことは規格作りそのものではなく、規格を使って、どのような付加価値を持たせるのかである」と指摘する。製造業の現場では、“つなげる”ことに翻弄(ほんろう)されてきたが、本来の目的は“つなげる”ことではなく、ユーザー企業がモノづくりの効率化を実現し、“新たな価値を生み出す”ことなのである。

村松氏 例えばPC環境ですが、20年前はインターネットにつなげるだけでも、専門スキルが必要でしたが、今やネット接続は当たり前となり、ネットを使ってどのようなことができるのか、何をするのか、ということが重要になっています。スマートフォンは、買って電源を入れた時点でネットにつながっています。それと対比して考えると、生産設備の仕組みでは、設備をネットにつなげるためにどうするか、ということと同じレベルのこと、つまり、フィールドネットワークはどうするのか、PLCやプログラミング言語をどうするのか、ということを検討するために、まだ多くの時間と労力を割いているのではないでしょうか。そのような課題も含めて問題を解決し、全体最適化を図ることができる統合制御型ロボットシステムとして「Advanced Robotics Automation Platform」開発しました。

  • つまり、ユーザー企業は、末端の細かい作業に貴重なエネルギーを奪われずに、全体の目的に集中できるようになるということですね。

村松氏 その通りです。生産設備を使う企業は、全体の目的そのものに集中するためには、使おうと思ったときには、インターネットにもつながるし、他社のシステムともつながる、必要なアクチュエーターは一通り制御でき、どのようなセンサーでもつなげることができ、場合によっては他社製品ともつなぐこともできる、そのように、最小のコストと手間で最大の目的を達成できる手段を得ることで、目的の実現が近づくと考えています。

全体最適化を実現する上でポイントとなったソフトウェアPLC「CODESYS」

  • 「Advanced Robotics Automation Platform」は、ソフトウェアPLCの「CODESYS」を採用しています。選定のポイントは何でしたか。

村松氏 「CODESYS」はインダストリー4.0の本流といわれている「OPC-UA」規格にも準拠しています。これにより、上流との通信環境などはほぼ万全になりました。なおかつ足回りでいうと、EtherCATやEtherNet/IPなどの標準的なフィールドネットワークにも対応し、さらに制御やセンサー周りを自在にカスタマイズできる汎用性を備えています。インターネット接続からアクチュエーターやセンサーなどの足回りまで、総合的に網羅している制御ソフトウェアのプラットフォームとして最適だったというから「CODESYS」を採用することで、必要な個々のソフトウェアをバラバラに購入し、それをつなぎ合わせるということに労力を割く必要がなくなりました。そして、われわれの本来の目的である、当社のロボット製品をいかに適合させて、全体が最適化された使いやすいシステムとして提供するか、ということに集中して開発することができました。

また、当社の統合プラットフォームの特徴は、ヤマハのロボットや搬送システムだけではなく、主にモーターで制御されているような、ユーザー企業が独自に設計したユニットもまとめて制御できるということです。プログラムもヤマハのロボット用、自社ユニット用というように分ける必要がなく、同じ環境でプログラムを作ることができます。そのようなことも含めて対応できる「CODESYS」は、ソフトウェアPLCとして最適でした。生産設備全体の最適化と徹底的に向き合って作ったのが、「Advanced Robotics Automation Platform」なのです。

生産設備の全体最適化により、ロボット本来の稼働率が向上

これまでは、生産設備においてロボットがモノをA点からB点に、いかに素早く、スムーズに動かすことができるか、ということが競争のポイントであった。しかし、村松氏は、そのようなことは既に大きな差別化ポイントにはなり得ず、今後はロボットが本来すべき役割の稼働率をいかに高めるかがポイントであるという。生産設備におけるロボット作りも、次のステップに来ている。

  • ロボットがモノをいかに素早く、スムーズに動かすことができるか、ということを訴求する時代は、既に終わっているのですか。

村松氏 自動車メーカー各社が馬力競争をしていたのは30年以上も前の話です。今は車が4気筒なのか、6気筒なのか、何CCなのかも、気にする人は少なくなっています。それよりも、車を使って、どのようなカーライフを楽しむか、レジャーを楽しむかというように、より目的志向にシフトしてきています。ロボットの精度や移動速度の比較は、自動車の馬力競争のようなもので、現在それらは、ほぼ成熟しています。それよりも、ロボットを使ってさらに何ができるのか、ということの方が重要になっているのです。

また、部品の自動組み立てラインでは、ロボットの稼働率が極めて低いといえます。つまり、ロボットはネジを締めたり、接着剤を塗ったりという本来の目的を果たす時間よりも、ネジ締め工程から接着工程へ運んだり、位置決めしたりする時間の方が長くかかることもあります。このような無駄な時間をもっと短くして、ロボットの稼働率を限界まで高めることが重要です。「Advanced Robotics Automation Platform」の製品群には、リニアコンベヤーモジュールというリニアモーターを応用した無限循環搬送システムが含まれており、これはモノを工程から工程に運ぶライン内物流を効率化、高速化する仕組みです。これにより、ロボットの稼働率を大幅に高めることができるようになります。また、当社では生産ライン全体を、大きな1つのロボットと具体的に捉えることにより、徹底的に無駄を省くシステムを考案しました。

  • ヤマハ発動機がロボットをロボットとして売るのではなく、システムとして考えるようになったのはいつ頃からですか。

村松氏 2年半ほど前からです。今後は、生産設備も目的志向に変化していくだろうと見方を変えたのです。企業が求めるスピード感は、10年前のスピード感と全く異なります。投資コストも昔と比べると、非常に厳しくなってきています。しかし、求められることは、ますます高度化しています。つまり、互いに相反する時間、コスト、高度化の全てに対応していかなければなりません。そのためには、今までやってきたけれども、実はやる必要性がないことは、どんどん排除していくようなシステムでないと、これからは対応できないということなのです。余計なことに時間を費やしている余裕は残念ながらもうないのです。

AI採用で、増加する生産設備の最適化需要に対応

IIoTの実現に向けて製造業が動き始めた現在、ヤマハ発動機では、既に先を見据え、システム統合環境における人工知能(AI)の採用を検討している。村松氏は、「組み立ての精度をより向上させ、時間がかかる調整作業の部分を人工知能で置き換えていくことを考えている」という。2018年にはこの人工知能の採用が実現する見込みだ。生産設備のさらなる効率化を目指すヤマハ発動機は、さらにその先までをも見据えている。

  • ヤマハ発動機では、製造ラインで稼働する前の最終プロセスを、人工知能を使って自動化していくのでしょうか。

村松氏 調整という作業は、ある特定の人の中に内在する経験的暗黙知なのです。これは他の人とシェアすることが難しい性質のものです。単純なところでは、ロボットをいかに素早く動かすか、いかに振動なく位置決めをするか、といった技術ですが、そこに一定のセオリーが必ずあります。そのセオリーを人工知能に学ばせ。るのです。さらに、プログラムの一部を人工知能で自動作成することも中長期的に検討しています。2016年に発表したロボットシステム「Advanced Robotics Automation Platform」が第1弾であり、それに続く第2弾が調整分野などの人工知能化、さらに第3弾がプログラミングの人工知能化ということです。