近年、新聞や雑誌で「人工知能(AI)」という言葉を見ない日はないと言っても過言ではない。スマートフォンで使われる音声操作アプリ、ロボット掃除機、囲碁・将棋ソフト、自動運転自動車、AIスピーカーなど、人工知能を搭載した様々な製品が我々の生活に深く関わるようになっている。さらに今後は、AIスピーカーを活用した家電制御システム、AIを活用したタクシーの配車システム、無人配送車による宅配、無人コンビニエンスストアの運営など、我々の生活をより便利に、より快適にするためのサービスがAIによってもたらされることが見込まれている。

また、我々の生活に直接的に関わることがなくとも、多くの企業がAIを積極的に取り入れ、ビジネス、サービスの幅を広げている。AIを活用するメリットのひとつに、大量の情報を分析するためにAI技術を活用することで、より詳細に、顧客のニーズを読み取ることがある。例えば、インターネットの閲覧履歴によって興味のありそうな広告を抽出し、潜在顧客への販売促進につなげたり、マーケティング戦略に生かしたりしている。そして、もうひとつのメリットは、作業の効率化である。これまで人間の手や目に頼っていた作業をAIによって自動化することで、作業をより正確に、より迅速に進められるようになる。例えば、AIを活用して特定の画像を認識させることで、道路や護岸のひび割れを検出することが可能となっている。

製造業における作業の効率化を考えると、まずは“ロボット”が頭に浮かぶ。産業用ロボットの導入、そして、それらロボットの技術革新によって、近年では協働ロボットが登場し、製造現場や工場の効率化が図られてきた。さらに、2010年頃より欧米を中心に、工場内のあらゆる機器をネットワークでつなげる「スマートファクトリー」の実現に向けた動きが活発化しており、場内のヒト・モノの動きをさらに効率化するため、工場内の様子も変わり始めている。

そして、次に期待されているのがAIとの融合であり、AI技術を活用する動きが見られるようになってきた。1月30日付の経済産業紙によると、ルネサスエレクトロニクスでは、2020年までに主力3拠点でAIを活用した生産革新を適用するだけでなく、エンジニアのように、データから推論できるAIの開発も進めることを発表した。また、2月1日付の全国紙、経済産業紙では、ファナックと日立製作所が、AI開発会社のプリファード・ネットワークスと共同出資会社を設立し、3社の技術を持ち寄り、製造ラインの機械が自ら学ぶ工場の実現を目指すと発表したことが大きく取り上げられた。

製造現場では、製品の品質検査や製造装置の異常検知は人間の手によって行われていることが多く見られるが、AIの導入により、マンパワーの削減だけでなく、生産性の向上にもつながることになる。前述のルネサスエレクトロニクスでは、エンジニアが誤って異常と検出してしまっていた数が、月に約50件発生していた。しかし、AIを活用して必要なデータを測定させたことで、その発生率が1/10以下になり、半年で5億円のコスト削減に成功している。

検査工程におけるAI活用の導入事例

工場の検査工程におけるAI活用では、2月14日付の経済産業紙で、ドイツのソフトウェア会社であるMVTecが、AIを実現するための手法である学習機能「ディープラーニング(深層学習)」で工場の不良品を発見する画像解析システムの発売を開始したことが紹介された。

MVTecの画像解析システムは、工場の中で使われるものに特化しており、長年の経験に基づき構築された、産業用画像処理に最適なディープラーニングネットワークが搭載されている。製品の「良品」、「不良品」の画像をシステムに学習させることで、良否判定や欠陥種別分類などを、複雑な特徴量解析や抽出アルゴリズムを組まずに簡単に行うことができるようになる。

製品を製造する工場において絶対にやってはならないことは、不良品をそのままラインに流してしまうことである。そのため、これまでの画像解析システムを使った検査工程では、少しでも不良品の可能性があるものは全て不良品として扱っていた。例えば、1万個の製品の中で、“不良品”が50個、“不良品かもしれない”が50個あったとすると、100個を“不良品”として扱っていた。そして、その100個から“不良品にはならない”ものを人間の目視で検査していた。しかし、それでは生産性の向上につながらず、最終的に判断する検査にも時間を要するため、もっと改善したいというニーズが工場から挙がっていた。今回の画像解析システムでは、100個あった“不具合”を、あらかじめ50個に識別することが可能となる。“不良品”と判定された製品が従来の半分になれば、目視検査にかかる時間、人員が削減され、作業効率化が図れる。

とはいえ、良否判断は人間の経験則がモノを言う微妙なものである。例えば、“このシミであれば良いが、あのシミは不良品の扱い”、“この程度の小さい欠陥は良品の範囲だが、あの欠陥はダメ”ということは、“熟練の技”を持つ人間によって判断されている。これまでの画像解析システムで不具合を判定するには、“面積が○○、色が××”というように、かなり明確に基準を定めていた。それでも、上記のような微妙なものの判定はできなかった。このシステムでは、ディープラーニングを使うことにより、より人間的な判断ができるようになる。識別するための要素としては、面積や色、形状などがあるが、ラインから流れる製品はすべて同じではなく、微妙に異なるものもある。例えば、色であれば、赤から黒に変わるグラデーションがあったとすると、ある部分だけ他と違って赤っぽくないといったような、微妙なグラデーションを識別するための特徴量は、事前に決めることができなかったため、そこは人間が判断していた。しかし、このシステムでは、そうした人間的特徴量を読み込ませることができる。それぞれの工場によって、その“微妙な違い”は様々であるが、それらを「良品」、「不良品」を判断した画像を追加して学習させることで、ネットワークの再トレーニングも可能となる。

産業用の画像解析では豊富な実績があるMVTecであるため、すでに「良品」、「不良品」を識別するための画像が組み込まれている。そこに、それぞれの顧客が、自社の製品識別に合致する画像を追加すれば、自社が求めるネットワークを構築することができる。追加する画像は、わずか100枚~200枚程度の画像で良いため、事前に画像を準備するための労力も少なくなり、すぐにシステムを使えるというメリットも生まれる。

すでにこのシステムを導入している電子部品メーカーでは、“不良品かもしれない”製品の中から“不良品”を見つけ出す精度が99.9%であったことが報告されている。また、良否判別できる画像さえあれば、簡単にシステムを導入することができるため、電機・電子部品だけでなく、自動車部品、金属部品、鉄鋼、錠剤等、様々な業界から注目されている。

最後に、2017年12月27日付けの経済産業紙では、損保ジャパン日本興亜がリスクコンサルティング会社のSOMPOリスクケアマネジメント、AIベンチャー企業のスカイディスクとともに、エンジニアが担う異常故障検知にAIを活用し、スマートファクトリー社会における新たなリスクに対応する保険・サービスの開発を開始している。さまざまな企業がIIoTの実現に向けたサービス、ビジネスのひとつとしてAIを活用しており、今後もますますその波は加速していくことになるだろう。