近年、「つながる工場」という言葉をよく目にするようになった。では、何をどのようにつなげることが「つながる工場」なのか。“工場のありとあらゆるものをつなぐ”と言っても、例えば、“工場内の機器をつなぐ”、“工場の人と機械をつなぐ”、“工場内にあるデータを外部とつなぐ”、“複数の工場のシステムをつなぐ”など、“つなぐ”目的、用途によって、求められるシステム、技術は変わってくる。

IT系のウェブメディアでは以前、インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)理事長の西岡靖之氏が「つながる工場」について、以下のように、工場を4階層に分けるという考え方を提案したことを紹介している。

「末端で稼働するアクチュエーターやセンサーなどの「Elemental Devices」(レベル1)、それらを束ねる設備やコントローラーなどの「Equipment / Controllers」(レベル2)、生産ラインや工場全体を管理するMES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)などの「Manufacturing Field」(レベル3)、そして工場を超えて企業全体を管理するERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)などの「Enterprize Management」(レベル4)の4階層である」

上記のレベル1、2は“工場内の機器をつなぐ”になる。工場の中で利用される機器として挙げられているセンサー、アクチュエーター、コントローラーのつながり方を見てみると、センサーからの信号をコントローラーが受け取って条件に応じた演算処理を行い、アクチュエーターへ信号を出すことで実際に物を動かしており、アクチュエーターとセンサーはコントローラーへ接続されている。

そして、センサー、アクチュエーターとコントローラーとの間に利用される通信には、様々規格がある。これらの規格は、FA機器メーカーが自社の機器同士を接続するために開発し、その後、規格団体を設立して他メーカーとともに普及に努める形が広くとられている。そのため、団体がどのように自分たちの規格を市場に普及させるかという方針が重要となり、規格をオープンにする/しないという選択は団体によって異なっている。

日本では、比較的オープンではない通信規格が広く用いられてきた。それは、複数のメーカーから規格を求めることよりも、特定のメーカーの規格を使うことにより、システムの安定性や、緊急時の迅速な対応をメーカーに依頼できるという関係性を重視したからである。一方のメーカー側は、工場との関係を密接にすることで、工場の全ての機器を自社製品で構築できる。また、システム管理やメンテナンスを継続的に行うことができ、工場とのビジネスを競合に取られることなく展開できることを求めた。こうした、双方の思惑が合致した上で、技術力に磨きをかけ、日本のモノづくりが発展してきた。

ただ、近年では、こうした発展に限界が見えてきた。それにはいくつかの原因がある。ひとつは、世界規模での技術力の向上である。欧米ではオープンな通信規格が主流であり、機器メーカーは様々な規格を使って開発を進め、製品化している。そのため、センサーなら○○社、コントローラーなら××社というように、各社の強みを生かした“適材適所”な製品が生まれてくる。そうした競争下では、当然、コストにも大きな影響が出る。1社に依存する形式では、どれだけコストダウンを要求しても最終的にはそのメーカーに頼るしかなく、価格競争で他社に勝つことは非常に難しくなる。さらに、生産工場が国内から海外にシフトしたことにより、国際標準に準拠しない規格で動かしている設備では、海外では受け入れられないことも大きな問題となっている。過去の「IIoT特集」で紹介したヤマハ発動機、ハイバーテック、コンテックでは、こうした流れにいち早く反応し、オープンでつながる工場に向けて取り組んでいることは周知の通りであろう。

このような状況の中、トヨタ自動車が2016年4月、オープンなフィールドネットワークである「EtherCAT*1」の採用を発表し、全世界のサプライヤーにも推奨していく方針を明らかにして大きな話題となった。トヨタ自動車はそれまで、日本電機工業会が策定した「FL-net」を標準としてきたが、生産ラインの最大効率化とIoT化を理由に、機器選択がほぼ国内に限られるFL-netから、国際的に広く使われているEtherCATへ方針転換を図った。

国内でも「つながる工場」の実現に向けた動きが加速している。3月16日付けの経済産業紙のインタビューで、日本工作機械工業会(日工会)の飯村幸生会長が、11月に開催される日本国際工作機械見本市「JIMTOF2018」について、「“つながる”がキーワードだ。IoTではどうやってつなげるかのHOW、つなげて何をするかのWHATの2つのレイヤーがある。日工会としては、HOWの部分を各社が差別化するのではなく、協調領域と捉えて共有化したい。そして、工作機械だけをつないでもダメ。工場全体がつながる環境をどう提供するかという業界横断の議論になる」、「欧州は産業通信用のデータ交換標準『OPC UA*2』が大きな流れで、その中に工作機械は『MTコネクト*3』、成形機では『ユーロマップ63*4』がある。つまりセキュアな環境の中にいろいろな業界が入り、つながっている。日本はこの統一がなかなか進んでいない。各メーカーがIoTをどのようにつなげるかを考えてやろうというのは大きなロスだ。日工会として、早く道筋を付けることが大きな課題だと思う」と語っている。

また、「つながる工場」を実現するために、近年、注目されているのが「エッジコンピューティング*5」である。2017年11月、FAとITの協調を実現するオープンな日本発のエッジコンピューティング領域のソフトウェアプラットフォーム「Edgecross」の仕様策定や普及推進を目的に、三菱電機、NEC、日本IBM、日本オラクル、オムロン、アドバンテックの6社が幹事となり「エッジクロスコンソーシアム」を設立することが、産業経済紙を中心に報道された。また、2018年3月1日には、新たに日立製作所が幹事社として参画することが発表され、企業や産業の枠を超え、それぞれの強みを生かせるオープンな環境を提供し、「つながる工場」を実現するためのIoT基盤の確立を目指していくことになる。

欧米での製造業のIoT化に対抗するため、今後も様々なレイヤーで“つながる”ための開発、運用が進められていく。

*1 EtherCATEthernetと互換性のある産業用オープンフィールドネットワーク規格のひとつ。PCベースのFA制御ソリューションを手掛けるドイツのベッコフオートメーションによって開発された。

*2 OPC UAマルチベンダー製品間や異なるOSにまたがってデータ交換を可能にする安全で高信頼の産業通信用のデータ交換標準。

*3 MTコネクト:MTコネクト協会が標準を定めた工作機械向けの通信プロトコル。デバイスやアプリケーションのデータ取得機能の強化、統合コストの削減を目指し、米国を中心に、既に多くの大手メーカーが採用している。

*4 ユーロマップ63ユーロマップとSPI(米国ワシントンDCのプラスチック産業協会)の技術委員会が合同で設置した通信プロトコル委員会により制定された、プラスチック機械製造元が使用するためのデータ交換インタフェース。

*5 エッジコンピューティング:工場内の情報を全てクラウドに上げるのではなく、ユーザーの近くにエッジサーバを分散させることで通信遅延を短縮する。高速なアプリケーション処理が可能になり、リアルタイムなサービスやビッグデータの処理などに、これまで以上の効果が期待できる。