エンベデッド・ビジョンとは

ドローン、自動運転車、掃除ロボット…人々の生活の中に少しずつ浸透してきているこれらの機械には、共通してあるモノがある。それは「目」である。つまり、カメラやセンサーという「目」から入る画像や位置情報を解析・処理することによって、必要な動きを必要な場所で行うことが出来るということである。

しかし、機械が目(カメラ)を使い、人間が行うべき業務をサポートしていたのは最近のことではなく、ある分野においては、当初から不可欠であった。例えばそれは、工場の自動化を助けるFA用途での画像処理であり、一般的には「マシンビジョン」と呼ばれている分野である。用途としては、欠陥、異物などの検査、位置検出などがあり、マシンビジョンが利用されている分野は、半導体製造装置、自動車、医療、物流など多岐にわたっている。

画像処理の歴史やそこで使われるカメラの進化については、「Machine Visionの世界」の中で紹介しているため割愛するが、これまで、工場の中で産業用途として使われていることがほとんどであったカメラやセンサーの技術が、近年では工場の外に飛び出し、一般生活の中に入り込んできているのである。IIoT Timesでは、この工場内で活用されていた画像処理技術が、工場外へ向かう世界を「エンベデッド・ビジョン」と表現している。

広がりつつあるエンベデッド・ビジョン

ドローンや自動運転車をはじめ、私たちの生活に「エンベデッド・ビジョン」は少しずつ浸透してきている。近年の代表的な例としてよく挙がっているのが、今年1月、米シアトルで1号店がオープンした「Amazon GO」である。Amazon GOは“レジに人がいないコンビニ”であり、店内には多くのカメラが設置されている。ディープラーニング・アルゴリズムにより人の動きをトラッキングし、何を手に取ったか、一度手に取った商品を棚に戻す動作などを正確に捉え、来店客の動きを把握する。Amazon GOはオープン前から大きな注目を集めており、開店してからも多くの来店客で賑わっているという。そして、5月にはサンフランシスコ、シカゴでも店舗マネージャーの求人情報を掲載されたというニュースが騒がれるなど、店舗の拡大が予定されている。

医療分野においては、これまでは大学病院等の大きな病院でしかできなかった眼底検査が、機器の性能向上、コストダウンにより、街のクリニックや診療所でも検査できるようになってきた。また、アメリカでは、薬局で検査ができるようにする取り組みを進んでおり、今後は、家庭内での検査も視野に入れている。医療分野では他にも、投薬の分包に関してエンベデッド・ビジョンが使われるようになっている。現在、多くの薬局では薬剤師がそれぞれの患者に合わせた薬をバーコードで読み取ったり、処方した薬をカメラで撮影して間違いがないかを検査している。しかし、大学病院などで使われている自動錠剤分包機が徐々に薬局でも使われるようになってきており、今後は、人の手や目に頼ることなく、分包も自動化されていくだろうと言われている。

農業分野では、コメの等級検査をJAや公的機関から、各農家で出来るようになる検査機の実用化が進んでいる。こうした流れは、これまで産業用で使われていたカメラとそこから送られている画像を処理するシステムの小型化、省電力化、高性能化、低価格化などによって実現しているものであり、さらにAIやディープラーニングによる性能の向上が見込まれている。

エンベデッド・ビジョンの未来

エンベデッド・ビジョンの実用に向けて、様々な動きを見せているのがアメリカである。そのひとつに、店舗の商品管理をロボットで行う動きがある。米国のウォルマートでは、棚の管理係として新たにロボットを採用し、2次元カメラと3次元カメラの両方で次から次へと棚を撮影し、棚の奥行きを見ることで、商品が棚一杯に並んでいるのか、あるいは品切れになっているのかを把握することができる。そして、人間は、ロボットから送られるデータを基に、在庫を補充することが可能になる。

不動産業界では、現在はある物件を検討する場合、その見取図を見た上で現場を内見するというのが通常の流れである。しかし、アメリカでは3次元カメラで部屋の中を撮影し、それらの画像をスキャニングすることで、3次元の画像を再現することができ、現場に行かなくても、物件の内見が可能となる。これは、すでに日本でも実用化されており、さらに身近な存在となっていくことが予想される。また、産業界では実用化が進んでいる「スマートグラス」も、今後は社会生活の中に入ってくることが考えられる。

カメラやレンズ、ICチップなどの技術革新が進み、さらに小型化、軽量化、低価格化すれば、エンベデッド・ビジョンの範囲はますます広がり、社会の流れを大きく変えていくことになるだろう。