最近のものづくりの現場は、ニーズの多様化を踏まえ、少品種大量生産から多品種少量生産へシフトしている。また、世界市場での競争が激化し、コストの削減やリードタイムの短縮といった要求にさらされており、厳しい環境下にある。
こうした市場の変化に加え、経済産業省が発表した「2018年度版ものづくり白書」では、製造業は大きな環境の変化に直面していると言われている。その原因のひとつが、「人材不足の深刻化」である。

人材不足の要因

前回の「IIoT Times」でも、多くの企業が人材確保を課題としていることを紹介した。経済産業省が2017年12月に実施したアンケートによると、94%の企業が人材確保に課題があり、3割強の企業では、ビジネスにも影響が出ていると回答している。また、前年(2016年12月)と比較すると、「特に課題はない」とする回答が19.2%から5.8%と大幅に減少した一方、「大きな課題となっており、ビジネスにも影響が出ている」との回答が22.8%から32.1%と増加しており、人材確保の状況が大きな問題となっている。

さらに、日本では現在、深刻な少子高齢化が進んでおり、日本の生産年齢人口(15歳以上65歳未満)は、1995年の約8,700万人をピークに減少の一途をたどっている。この傾向は今後も継続すると予想されており、2060年には約4,800万人と、2015年の約6割の水準まで減少すると推計されている。また、労働力人口(15歳以上で、労働する能力と意思をもつ者の数)の変化についても、以前と比較すると、44歳以下の人材の占める割合が減少している一方、55歳以上の人材が占める割合が増加している。

人材不足を解決するために求められていること

こうした人手不足の課題を解決するのが、デジタル技術の進展の伴う「第四次産業革命」である。ロボット、IoT、AIなどの先進ツールを広範で活用することにより、生産性を向上させることができると考えられている。製造現場においては、各ラインにセンサーを導入することで稼働状況や環境情報をきめ細かく収集して解析し、分かりやすく見える化する。こうした「つながる工場」を実現し、ニーズに応じて、柔軟に生産ラインや計画を組み替えることができれば、多くの人員を介さなくても、様々な需要に応えることができ、生産性の向上にもつながると考えられる。

技術をどのように伝承するのか

しかし、単に工場をセンサーやシステムでつないだとしても、各工場の中にある“技術”や“ノウハウ”が伝承されるわけではない。これまでの日本の製造業において、こうした技術は人から人へと伝承されてきており、現在、多くの企業では、技術を有した熟練した経験者が退職する時期を迎えている。そして、これまで蓄積されてきたノウハウや勘といった目に見えない資産が「現場力」となっており、その力をどのように継承していくかが重要な課題となっている。

神戸国際大学 経済学部教授の中村智彦氏も、あるIT系オンラインメディアで今後の製造業について「日本の製造業の強みは、熟練者の持つ技術やノウハウの伝承にある。これをブラックボックス化せずに、導入しようとしているデジタル技術や自動化と組み合わせられれば、強みとして昇華できるはずだ」と説明している。

また同氏によると、すでに、熟練者の技術やノウハウをデジタル技術や自動化にうまく取り込んでいる事例はいくつもあるという。例えば、ある歯ブラシ工場では、毛先の揃い方などを画像認識で検品しているが、ベースになっているデータは女性従業員による目視結果である。また、歯ブラシがモデルチェンジする時には従来の画像認識のアルゴリズムでは検品ができないが、女性従業員の目視検品であれば柔軟に対応できる。そして、そのデータを基に、新たに画像認識のアルゴリズムを作り直している。

ある塗装ラインに用いられているロボットは、塗装を行う途中でスプレーの先端を上下に振るような動きをする。これによって泡のつまりが抜け、塗装の品質を維持できる。この動作の基になったのは、塗装の名人の作業だったという。名人自身もなぜそれをやっているのかを説明できない動作であったが、塗装の品質を確保する上で大きな効果があったとのことである。

このように、これまでは俗人的に有していた知見をデジタル化し、工場全体で共有し、利用できる仕組みづくりこそが、IIoTの実現と言える。今後は、専門性の高い製造データを取捨選択した上で、資産化するノウハウや技術をデジタルデータとして保存、共有していくことが、日本の製造業に求められている力であり、それを工場全体で保有できることが新たな「現場力」となると考えられる。そして、その力を生むのは人間の力であり、AIやディープラーニングをどれだけ用いたとしても、知恵を絞り、新たな価値を生む出すことは、機械にない人間の価値となるのではないだろうか。

今後の課題

しかし、IIoTの実現にはまだまだ課題がある。上記のように、IIoTを実現するためには、人の知見のデジタル化が重要ではあるが、工場を各ラインのつなげるだけでも、相当の設備投資が必要であり、大規模投資が可能な大手企業以外では負担が大きすぎる。

経済産業紙によると、IoTやAIなどの先端技術を活用した企業は、まだ活用していない企業に比べると、売上高と経常利益額が増加傾向にある。また、3年前を比べて労働生産性も向上している割合が高いことが明らかになったと報じている。一方、IoTやAIといった技術を導入すること自体が困難な企業も多く、特に経営資源の制約が大きい中小企業にとっては、IT導入のハードルが高いのが実情である。「2018年版中小企業白書」によると、先端技術のうちの少なくとも1つ以上を活用している中小企業は、まだ全体の1割程度にとどまっている。

政府はITツールを導入して業務効率化をサポートする支援を、補助金などを通じて後押しし、生産性向上を急いでいる。しかし、政府関係者によると、「中小企業ではIT活用が爆発的に進むような状況に至っていないのが現状」とのことである。

労働の担い手の中心である生産年齢人口が減少、加速化していることは変えようのない事実である。そのような状況の中で、日本の製造業を大きく変革させるには、IIoTの実現が不可欠となっている。