当たり前になったIIoT

産業用IoT(Industrial IoT、IIoT)やスマート工場といった言葉がさまざまなところで語られ、多くの人々がその重要性について理解できる段階に来ている。工場および工場内の設備や機器をインターネットにつなぐことに、異論を唱える人はもはや少なくなったといえるだろう。
しかし、その根本である問いにいまだに答えられない企業が多いのも事実だ。「そもそも工場をインターネットにつないで何をするのか」ということである。IoT(モノのインターネット)などで「つながる化」を進めることは手段であり、本質的な目的ではない。しかし、つなぐこと自体が目的化している現状に対して、その先に存在するべき「いかに生産性を向上させるか」の部分に切り込む議論を、そろそろ開始すべき段階にあると考えている。

AIはIIoTの20%程度

最近ではAI(人工知能)関連技術やディープラーニング、機械学習といったキーワードも広がりを見せている。そのため、工場をインターネットでつないでしまった後は、ディープラーニングにお任せして生産性を向上させようと考える人もいるようだ。

工場のさらなる改善に向けて、AI関連技術を活用しようという考え方そのものは間違いではない。しかし、欧州で情報収集をしていて感じるのが、IIoTにおいてAIが効果を発揮するのは、IIoT全体の20%程度だろうというのが多くの見方である。

もちろん、モーターの振動音などから異常を検知して、予兆保全をするというのにはAIが向いているだろう。しかし、こうしたことはIIoTがもたらす効果のうちの一部であり、残りの80%はAIに頼らずとも効果を発揮する可能性が十分にある。AI以外の領域でより大きな効果を発揮できるというのが、IIoTの特徴であると考えられる。

人任せガラパゴス化から、人とシステムの一体化へ

日本の製造業を見ていて感じるのが、「製造現場のスキルの高さが、オートメーションの可能性を制限してきたのではないか」ということだ。

日本では、大学を卒業し考える力をもった優秀な人たちが、製造ラインに張り付いて装置やラインの管理を行っている。そして、ちょっとした故障停止(チョコ停)が発生すると、その優秀な人たちがすぐにラインを復帰させる。仮に、飲料の製造ラインでボトルが倒れても、すぐに駆け付けてボトルを立て直し、必要な処置を施して装置を再稼働させる。薬を製造する現場では、タンクをかき混ぜて40℃に達したら劇薬を2杯タンクに入れる、優秀な人たちはこの決められた作業を確実に行うのである。

一方、海外ではそもそも現場の人の能力に依存するような製造ラインを設計しない。チョコ停が発生するとすぐに集中管理センターにエラーが伝達され、そこでどのような問題が発生しているか見極め、必要な人材を必要な場所へ送り、復旧の手段もタブレット端末に表示させる。また、タンクをかき混ぜて劇薬を入れるプロセスも、作業員がその通りに作業(40℃で劇薬を2杯入れる)をしないと、次のステップに進めないような仕組みが実装されている。

その結果、誰が、何時何分に、どのプロセスを行ったのか、といったトレーサビリティーまで手に入るようになった。つまり、人の能力に依存しない製造ラインを実現する上で、工場をネットにつなぐ必要があったという、日本とはある意味逆の方向からスマート工場化に進んできたといえる。私は、現場の人の能力に依存した日本の状況を「人任せガラパゴス化」と呼んでいる。

「人任せガラパゴス化」自体は決して悪いことではなく、むしろ、これまで日本が世界競争に打ち勝ってきた競争力の源泉であった。これは素晴らしいことであり、誇りに思う。しかし、これから訪れようとするIIoTやスマート工場といった考え方を採用するには、日本人が苦手とするパラダイムシフトを行わなければならない。すなわち、過去の常識が現在の常識ではないことを受け入れる必要がある。そこでキーとなる単語が、生産現場のデジタル化(IIoT化、ペーパーレス化、ツールの階層化)、つまりは、人とシステムを一体化させることである。

IIoTの基本概念

下の図は現時点で理想的と考えられるツールチェーンの階層である。

上位層のERP(Enterprise Resources Planning)システムから、何を、どれだけ、いつまでに生産すべきという指示が発行され、MES(Manufacturing Execution System、製造実行システム)が具体的にどれだけの材料を準備して、どのように製造するべきかという作業指示書を発行する。

その作業指示書は紙によって印刷され、作業員がそれを見ながら自動製造機を設定するというのが一般的な日本の製造業である。また、その指示通りに実施したことを、作業記録として手で紙に記述して保管するのである。つまり、今の日本にはSCADA(Supervisory Control and Data Acquisition)システムという階層を導入しなかった企業が多く見受けられ、そこに人が多く介在しているのが現状である。

水平方向の連携と垂直方向の連携

下位の階層であるPLCの範囲において、日本では極めて高いレベルでオートメーション化が実現されている。つまり、PLC(Programmable Logic Controller)の階層の横方向はデジタル化がなされているのに対して、縦方向にはデジタル化が進んでいないことを意味している。

MESで発行される作業指示書の内容通りに自動製造ラインで稼働させることを、紙の作業指示書と紙の作業記録を基に、人が介在して行っているのである。工場をスマートにさせるIIoTとは、横方向だけではなく、縦方向にデジタルで一気通貫につなぐことである。縦方向にデジタル化することによって、現場の作業員がゾーンと呼ばれる3装置程度にまたがる「担当区域」から、「ライン全体」を見渡すという視点の変化をもたらすことができる。チョコ停が発生すると、作業員はタブレットで全体を見渡し、誰が何の修理道具をもって現場に向かうべきか、そういった視点の変化によって生産性を向上させることができる。

また、生産性だけではなく、品質の確保も高いレベルで実現できるようになる。作業記録が電子化されると、人が後で作業内容を書き換えられなくなるため、不具合を見落とす、もしくは見て見ぬふりをすることができなくなるのである。製薬の世界では、監査証跡(作業記録の徹底した管理)は医薬品の規制で順守すべき重要項目となっているが、いつの間にかインドの方が日本より先を行く事態まで発生している。

工場をインターネットでつなぐことによるメリット、つまりは工場を縦方向にデジタル化するメリットにはこのような点があるのである。

*本原稿は、「MONOist」で連載されている「IIoTの課題解決ワンツースリー(株式会社リンクス 村上慶氏による執筆)」を下に作成しています。
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1810/30/news002.html

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