*本原稿は、2016年11月8日の「マイナビニュース」で 掲載された記事「 日本メーカーが大苦戦!マシンビジョンの世界で何が起きているのか?(5)」を一部加工し、転載しています。

マシンビジョンのこれまでとこれから

工業用画像処理の世界は何度かの大きな変化により、そこで活躍する企業が新たに発生し、入れ替わり、編成された。もちろんこうしたトレンドは技術革新によってもたらされ、そのたびに生産現場は多くの工程が自動化されることで、日本のモノづくりは強くなっていった。

90年代後期におけるパソコンの演算能力の飛躍的な向上により、これまで机上の理論であった画像処理技術が日の目を見る時代が訪れた。この時代に、工業用画像処理そのものの市場規模が著しく拡大し、そこで活用されるソフトウエア、カメラ、照明、レンズなどを提供する企業が大きく成長した。その成長は爆発的なものであり、約1000億円の市場が急速に形成されたことを意味する。

それに対して2005年頃からは、海外勢のカメラメーカーがアナログからデジタルへの移行「インターフェーストレンド」、CCDからCMOSへの移行「センサートレンド」を作り出し、これにより活躍する企業(カメラメーカー)の顔ぶれが変わった。このタイミングでは、市場規模自体は数パーセントでコンスタントに成長する程度で、90年代後期のような勢いは無かったが、カメラメーカーだけは大きな渦に巻き込まれ、大きく成長する企業と淘汰される企業が出てきた。

それではこの先はどんな世界が予測されるのか。今後、市場規模自体が大きく成長するのは工業用ではなく、工場の外における画像処理だと考えられる。この世界をエンベデッド・ビジョンと呼んでいる。自動車やお掃除ロボットにカメラが搭載されるようになったのが良い例だろう。これはすでに存在する市場において、新たなセンサーとしてカメラが活用されるようになったことを意味する。

また、シリコンバレーを中心とする企業が積極的に取り組むのが、自動走行をベースとしたサービスである。自動走行とは自動車だけではなく、例えば郵便配達を人ではなく自動走行ロボットに置き換えるとか、ホテルでタオルを届けてくれるロボットなど、用途はさまざまである。工場の自動化はかなりのレベルで実現されるようになったが、現在では物流の世界で自動化に向けた取り組みが極めて活発に行われている。

 

工業用画像処理にも変化が

エンベデッド・ビジョンの幕開けは、さまざまな範囲に影響を与えることになる。実はエンベデッド・ビジョン市場の隆起が、工業用画像処理の一部の世界を変える可能性があるのだ。自動走行などによってカメラを搭載した製品が増えると、より多くのカメラが活用されてコストが下がることになる。それに対して、工業用途ではコスト面から画像処理の代わりに光電センサーが用いられる場合があった。これが今後さらにコストが下がると、光電センサーを画像(カメラ)で置き換えようという流れが生まれるはずだ。

エンベデッド・ビジョンによってカメラコストが低下し、工業用世界に影響を与えた例を一つ挙げる。金属部品を製造する加工機の世界では、より精密に加工するために切削工具の寸法を正確に把握する必要がある。というのも、金属を加工すればするほど切削工具は摩耗していくからである。これまでは1点の距離を計測できる光電センサーと、加工機のロボットの機構を組み合わせて計測していた。具体的には、切削工具をロボットで左から右に移動させ、光電センサーをさえぎった瞬間の位置と再び光を検知した瞬間の位置をロボットから取得することで、切削工具の幅を計測する手法が採られていた。これをカメラで画像として撮像すれば、切削工具の全体を正確かつ瞬時に計測できるようになる。このように、画像センサーのコスト低下は、他のセンサーを置き換える可能性を生み出している。

 

(左)ファイバーセンサー(光電センサー)による計測のイメージ図。工具(黒)が光電センサーの前を通ると光が遮られるため、光を再び検知するまでの距離を計ることで工具の幅がわかる。

(右)画像処理による計測のイメージ図。光電センサーでは工具の決まった位置しか計測できなかったが、画像処理ではさまざまなポイントを計測できる

 

工業用画像処理の世界は90年代後半に爆発的拡大を果たし、現在では10%程度の成長率で推移している。そこに、自動走行などのテクノロジーにより、民生市場(エンベデッド・ビジョン)において新たなサービスがスタートしようとしている、もしくは自動車やお掃除ロボのようにすでに存在する市場でカメラの導入が進んでいる。さらには、この工業用画像処理と民生のエンベデッド・ビジョンが普及することによって、工業用途の世界でまだ画像処理技術が採用されていない分野にまで画像処理が採用されようとしている。この流れはカメラとその周辺システム、つまり「画像センサー」のコスト低下によって生み出されている。

大きな市場変化の渦にのみ込まれたカメラメーカーは、新たに隆起しようとしている「エンベデッド・ビジョン」市場、そして画像処理を採用したくてもこれまで高価で見送っていた「工業用途で画像処理が未導入の市場において、どのような戦い方をするのかが重要となってくる。すでに述べた通り、「工業用画像処理」の市場は成長が鈍化したため、ここで熾烈なシェア争いを繰り広げてきたメーカーたちは、新たな市場に活路を見出す必要がある。

 

民生市場(エンベデッド・ビジョン)は工業用市場より遥かに大きい

 

 

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