*本原稿は、2017年3月7日の「マイナビニュース」で 掲載された記事「 日本メーカーが大苦戦!マシンビジョンの世界で何が起きているのか?(7)」を一部加工し、転載しています。

エンベデッド・ビジョンと呼ばれる市場が現在大きく隆起しようとしている。そもそも画像処理の歴史は1960年代にさかのぼるが、その頃から例えばステレオビジョンと呼ばれる、人間の目のように2つのカメラを用いて高さ情報(奥行情報)を得るアルゴリズムは存在していた。しかし、それを演算するCPUが存在しなかったために、実アプリケーションで採用されることはなく机上の理論にとどまっていた。それが90年代のPC向けCPUの目覚ましい性能向上により、PCが工業用画像処理の世界で採用されるようになり、ようやく机上の理論が日の目を見る時代が訪れた。工場の中で用いられる各種装置やロボットには、PCという大きな筐体を設置するスペースが存在したからである。

その後、スバルが世界で初めてステレオビジョンによって自動車を緊急停止させる機能の量産化に成功した。これまで工場の中でPCを用いて処理されてきた画像処理が、自動車の上でも実現される時代が来たのだ。もちろんPCを自動車に搭載することはできない、つまりはARMのような組込機器向けCPUの演算能力が高まったことにより、いよいよ画像処理が工場の外でも本格的に採用される時代に入ったことを意味する。ARMだけでなく、Xilinx、QUALCOMM、NVIDIAといったさまざまなチップメーカーが、画像処理に特化した専用CPU(SoC)をリリースしていることからも、この市場が隆起していることが見て取れる。

従来、工業用途の画像処理は1000億円程度の市場であったため、そこで活躍する技術者の数は限られていた。しかし、B to C市場が画像処理を採用し始めると、シリコンバレーを中心とする優秀な技術者が大挙して画像処理の研究開発をすることとなり、技術革新がさらに加速する状況となっている。自動車の自動走行などはその典型的例であるが、それ以外にも写真の自動仕分けのための顔認証などその用途はさまざまである。以下に画像処理が用いられる産業を、カメラのコストが高い順に並べて記す。

 

 

コンシューマー向けカメラを製造しているメーカーと、FA向けのカメラを製造しているメーカーとでは、カメラの設計コンセプトも設定する価格もまったく異なる。工業向け画像処理では(1)長期保証、(2)高品質、(3)高性能が求められる。工業向けのユーザーからすると、コンシューマーのカメラは毎年のようにモデルチェンジしてしまうと装置を開発しなおす必要があったり、ちょっとした静電気で壊れてしまったり、メーカーは不具合解析などに付き合ってくれない、画質は品質検査を行うのに耐えうるものではなくといったことが理由で大きな隔たりがある。

例えば、ロボット掃除機に搭載するカメラは室内の様子が見られれば良いので、画質は極めてシンプルなものしか取れない。そして、静電気によって壊れてもそこまで大きな問題はないため、基板設計の際には保護回路などを設ける必要がないのでコストも下げられる。センサーがモデルチェンジしても部屋の絵に大きな影響を与えないので、カメラがモデルチェンジすれば新しいモデルを搭載すればよいだけである。画質が変わることでシステム全体を再設計する必要はない。

しかし、前述の通りFA市場が成熟化してきた現在において、FA向けカメラメーカーは新たな活路を見出すために下方向に市場規模を拡大しようとしている。コンシューマー向けや自動車向けのカメラメーカーたちもその市場規模を拡大しようと、(1)長期保証、(2)高品質、(3)高性能をできるだけカバーする形で上方向に進出している。近い将来のうちに、FA市場の中で戦い合っていたカメラメーカーたちは、コンシューマー向けカメラメーカーという新たな競合と中間層の市場で激突することになるであろう。

それぞれの市場において、(1)長期保証、(2)品質、(3)性能、(4)価格という観点でそれぞれの異なる要求がある。いずれにしてもキーとなるのは、求められる性能を、いかに低コストで提供できるかにかかっている。そのためには、求められる機能を求められる分だけ搭載して無駄を一切削る、そしてコストが抑えられる部材をあらゆる市場から発掘して採用する、といった絶え間ない努力が必要となる。

これまでは2次元のカメラについて議論してきたが、もう1つ忘れてならないのが3次元カメラの出現である。高さ情報(奥行情報)を得るためにさまざまなセンサーがこれまで研究されてきたが、いよいよここでも大きなブレークスルーが起ころうとしている。

 

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