*本原稿は、2017年8月22日の「マイナビニュース」で 掲載された記事「 日本メーカーが大苦戦!マシンビジョンの世界で何が起きているのか?(11)」を一部加工し、転載しています。

スペクトル解析自体は長年の歴史があるものの、なぜ今ハイパースペクトルカメラが注目を浴びているのか。それは、ハイパースペクトルカメラの低価格化が影響している。これまで研究用途や航空宇宙の用途に限られていたことでコストが高止まりしていたが、最近になって低価格化を仕掛ける企業が増加したことにより、工業用途に広がりを見せようとしている。

まずハイパースペクトルカメラの原理について解説する。ハイパースペクトルカメラでもっとも一般的な手法として用いられているのが、下図に見られる「プッシュブルーム方式(Push-broom)」である。図中の左に撮像するライン(Scan Line)が表示されているが、このラインの中で黒く塗られた1ピクセルに焦点を当てて原理を説明する。このピクセルは、いくつもの光学部品によって構成される「グレーティング」を通過すると、光が決められた波長ごとに分解され、その分解された各波長の光は受光素子(CMOSもしくはInGaAs)の各ピクセルに照射される。XXnmの光はこのピクセルへ、YYnmの光はこのピクセルへ、といった感じである。つまり、受光素子の縦方向は光の波長ごとの明るさを意味し、横方向は物理空間の横軸を意味する。

繰り返しになるが、1つのピクセルがグレーティングによって分解された波長は、受光素子の縦方向で輝度を計測する。一方で横方向はそのまま物理空間の横方向を意味する。つまり、1つのラインが、二次元のデータとして受光素子上で計測されることになる。これを二次元の平面の計測に適応するには、下図のように対象物をコンベヤベルトで動かしながら計測する必要がある。

上記で解説したプッシュブルーム方式の場合、一般的にグレーティングは市販の光学部品を組み合わせて構築されるが、最終的な光の到着点である受光素子(CMOSやInGaAs)の各ピクセルが15μm程度の大きさと考えると、これらの光学部品をいかに精密に組み立てなければならないか想像できるだろう。XXnmの光はこのピクセルへ、YYnmの光はこのピクセルへ、という調整を手作業で精密に部品を組み合わせながら行うのである。これがハイパースペクトルカメラのコストが高くなる原因の1つとなる。

精密な手作業だけでなく、光学部品そのものも市販品をいくつも組み合わせるため、それぞれの部品に無駄な性能とコストが乗っていると考えられる。というのも、それらの部品はハイパースペクトルカメラを構築するためだけに設計されたものではないからである。

また、受光素子のコストについて考えると、CMOSは広く一般的に民生品でも活用されていることからコストはずいぶんと下がった。しかし、物質同定に能力を発揮する近赤外領域を計測するInGaAsセンサーはまだコストが高い状況にある。

まとめると、これまでハイパースペクトルカメラのコストが高止まりしていたのは、(1)精密な手作業による組み立て、(2)光学部品が市販品の組み合わせで冗長、(3)InGaAsセンサー自体のコスト、と考えられる。これまでの研究用途や航空宇宙用途の市場規模で考えると、ハイパースペクトルカメラのコストは1000万円以上というのが通常であった。ところが、それが半額になる時代が到来した。

SPECIM社(フィンランド)は、これまで数十年間にわってハイパースペクトルカメラを製造してきた、いわば老舗のような会社である。しかし同社は、この業界で初めて自ら財務的に大きな投資を行うことで、コストを一気に下げる賭けに出た。これまで汎用品の組み合わせだった光学部品を、無駄が一切生じないようにハイパースペクトルカメラの目的だけに特化して設計した。また、精密な手作業での組み上げが必要となる製造工程も、自動化もしくは単純化によって大量生産の体制を整えた。これらの意欲的な投資により、コストをこれまでの半額にまで抑えることに成功した。サイズも圧倒的に小さくなっているのがわかる。

 

ハイパースペクトル解析ソフトウエア

SPECIM社が仕掛けたコスト低下によって、これまで研究機関や航空宇宙の分野で用いられた技術がFA(ファクトリオートメーション)などへ浸透するきっかけをもたらした。しかし、このような新たな分野での新技術の活用に障壁となるのが、解析ソフトウェアをどのように構築するかである。研究機関や航空宇宙の開発者にとっては、ケモメトリックス(計量化学)という学問には精通していて、主成分解析や相関解析、マハラノビス距離といった言葉は馴染みが深いだろう。しかし、オートメーションやマシンビジョンの開発者にとっては、まったく別の新たな学問となるため、そのようなソフトをゼロから書くのは大変な作業である。

そこで、ケモメトリックスに精通していない技術者でも、簡単に目的を達するためのソフトウエア(Perception Studio)を開発したのがperception park社(オーストリア)である。オートメーションやマシンビジョン分野の用途に特化したパラメータだけをユーザに開示し、それ以外の複雑な計算式やパラメータはソフトの内部で自動的に行ってくれ、最終的にはGPUで演算する環境まで自動的に整えてくれる。これによって、ユーザはPerception Studioに対して、ハイパースペクトル画像を提供し、「ここが物質Aであり、ここが物質Bである」と教示するだけで目的に達成することができる。

以上のように、ハイパースペクトルカメラのコスト低下と、ハイパースペクトル画像の解析ソフトウエアの出現により、これまで二次元の画像処理では実現できない新たな課題を解決する手段が利用できるようになった。

 

※本記事は最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。