*本原稿は、2017年12月18日の「マイナビニュース」で 掲載された記事「 日本メーカーが大苦戦!マシンビジョンの世界で何が起きているのか?(12)」を一部加工し、転載しています。

波長解析には、数百バンドを計測するハイパースペクトルと数十バンドを計測するマルチスペクトルが存在し、また波長領域もCMOSセンサーを用いた可視光とInGaAsセンサーを用いた近赤外が存在する。今回は、可視光(CMOS)におけるマルチスペクトルカメラについて紹介する。

これまでマルチスペクトルの領域では、「スペクトルメーター(分光計測器)」と呼ばれる絶対的な色を計測するツールが用いられてきた。スペクトルメーターは一点に入射された光を空間的に分散させ、波長ごとの光量をフォトダイオードで読み取る機器構成を取る。グレーティングおよびフォトダイオードを用いるとどうしてもサイズが大きくなってしまうため、以下の図のように手動で計測ポイントに移動させて計測するのがほとんどである。

これに対して、近年急速に成長しているのがCCD/CMOSセンサーのピクセル上にバンドパスフィルタをコーティング(印刷)することで、各ピクセルで各波長を直接計測する方式である。グレーティングを用いないこの手法は、システム構造を圧倒的にシンプルにするため、通常のカラーカメラのように低サイズ化が実現できる。ただ、このフィルターの搭載技術はさまざまな手法が開発されており(Spin Coating、Vapor Coatingなど)、どれも現時点で課題となるのは、目的の製造数に対する製造コストのバランスである。民生向けの製品であれば大量に製造するためにコストを下げられるが、工業向けの製品では、いかに希望する波長のフィルターを少量であっても低価格に製造できるか、が重要となる。この点での今後の技術革新に期待したい。

ちなみに、民生向けにはマルチスペクトルセンサーを搭載したスマートフォンがリリースされた。

そんな中でEspros社は、低価格に可視光から近赤外の900nm付近まで計測できるCMOSセンサー「SPM64」をリリースした。64ピクセル(8×8)のCMOSセンサー上に、下図のような特性を持つ64のバンドパスフィルタを各ピクセル上にコーティングしている。そのバンドパスフィルタのコーティングには一般的にコストがかかるとされるファブリペロー(fabry-perot)方式を採用しているが、フィルターのコーティングを委託しているVIAVI社の技術革新により低価格化に成功し、組込機器で採用可能な価格設定を実現できたことが本製品の大きな特長といえる。具体的にコーティング技術の革新とは、バンドパスフィルタを塗布する際に、1バンドずつ塗布するのではなく、数パターンのフィルタを事前に作成してそのパターンの組み合わせにより64バンドを構成するという、合理的な手法を用いている。

このようなCMOS上にフィルターを装着したスペクトルセンサーは、上述の通り、スマートフォンなど民生品への適応が検討されている。波長情報を解析することで食品の鮮度が計測できることから、スマートフォンに搭載するとスーパーでさまざまな食品にかざして計測するサービスが検討されている。さらには、例えばコーヒーメーカーを製造する会社では、自らが製造するカプセルが使用されているか見分けるために、波長情報で内容物の判断をしようとする動きもみられる。携帯電話やコーヒーメーカーに搭載できる価格帯まで下がったことを意味している。その応用範囲は今後もますます広がりを見せると考えている。

マルチスペクトルが注目されているのは民生品の世界だけではない。工業用の世界でもChromasens社は、これまでカラーのラインセンサーカメラを開発・製造していたが、最近になってマルチスペクトルのラインセンサー「truePIXA」の開発に成功した。ラインセンサーとは、CMOSの受光素子が一列だけに並んでいることを意味し、つまり一度シャッターを切ると1ラインしか計測できない。つまりは、対象物を動かすか、カメラを動かしながら受光を繰り返すことで、2次元の平面の画像を取得するものである。高速に対象物が移動するような場合は、通常の2次元カメラより適している。

上図のように、ラインセンサーを均等に4分割し、異なるカラーフィルターで同一視野を撮像することで4バンドの情報を取得する。この際、撮像素子はRGBの3ch分を取得するために用いられるTri-linearセンサーが用いられており、各4バンドに対して3ch分のデータが得られるため、合計で12バンド(3×4)の情報を取得できる。ラインセンサーを用いているため、スポットではなくスキャン方式で対象物全体のスペクトル情報を画像として高速に取得できる。画像として多点のスペクトル情報を一気に取得できるこの手法は、決まったスポット径の計測しかできないスペクトルメーターに比べて圧倒的な自由度を提供する。

最たる例はやはり印刷物の検査である。スポットしか計測できないスペクトルメーターでは、複雑な模様の印刷物を計測することは不可能だが、truePIXAであれば下図のように無数の任意の領域の色計測をインラインに対して適用できる。

 

 

印刷物以外にも絨毯などの繊維物や複製絵画、紙幣といった対象物の検査に対しても同様の技術が実用化されてきている。変わったところでは、タバコの風味は葉の成熟度によって大きく左右されるが、成熟度は色を指標として厳密に管理されている。この検査もスペクトルメーターが従来用いられてきたが、近年ではtruePIXAを用いたインラインでの検査が実用化されている。画像ベースでのインライン色計測によるスペクトルメーターからの脱却は今後も拡大すると考えられる。

 

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