近年、食に対する安全性の要求が高まっている。特に食品への異物混入は社会の大きな関心を集めている。食品メーカーは、商品に異物混入が発生した場合、自社の負担により自主回収を行わなければならず、これまで築き上げたブランドイメージも損なわれてしまう。加えて、厚生労働省は、都道府県知事などへの報告を義務付ける等、規制を強化する方向で検討を進めており、食に対する安全性の高まりは食品メーカーへの負担をますます大きなものにしている。一方、食品の検査にはカラーカメラを用いて自動的に検査することが試みられてきたが、検査対象物や異物の形、色、大きさが一定ではないため、自動検査が非常に困難なものであった。そのため、検査員は目視で検査しなければならず、自動化が進んでいないのである。

このように食品の自動検査が困難な状況において、現在、ハイパースペクトルカメラによるインラインでの検査が新しい技術として注目されている。

ハイパースペクトルカメラの特性

ハイパースペクトルとは、光はさまざまな波長から構成されており、例えば人間にとって白く見えるものは、可視光領域の400nm~800nmまでの光が均一に混ざっていることを意味する。また、木(植物)を通常のRGBカラーカメラで撮影すると、図1のようにGの輝度が大きく反応する。しかし、実際には光はRGBといった3つの大枠のバンドで構成されているのではなく、もっと細かな波長の光から構成されている。たまたまカラーカメラは、この複雑な波長の組み合わせを3つの帯域で大まかに撮像しただけなのである。これに対し、ハイパースペクトルは光の波長を細かな帯域で計測したものである。一般的に可視光領域を単純に3つのバンドで計測すると「RGB」、数10バンドで計測すると「マルチスペクトル」、数100バンドで計測すると「ハイパースペクトル」となる。

図1:カラーカメラとハイパースペクトルカメラの違い

近赤外線の感度特性を持つハイパースペクトルカメラでは、材質の異なるものを区別することができる。図2は、カラーカメラ(上)とハイパースペクトルカメラ(下)による石とジャガイモの画像であるが、石とジャガイモは色、形が非常に似ているため、これまでのカラーカメラを利用した画像処理では区別することができなかった。しかし、ハイパースペクトルカメラで撮像したジャガイモと石は、その違いがはっきりとわかる。

図3のスペクトル情報を見ると、横軸が波長であり、縦軸が光の吸収度合いを示している。青のグラフがジャガイモであり、緑のグラフが石となる。波長400nm – 900nmまではどちらも同じ傾向を示しているが、950nm近辺でジャガイモのグラフが大きな変化を示している。これは、ジャガイモが水分を含んでおり、その水分が950nm近辺の波長をよく吸収しているためである。それに対して石のグラフは変動がない。これは石には水分が含まれないために、光を吸収しないためである。この特徴を捉えることにより、石とジャガイモの区別が可能になる。今回の例は、水分の吸収特性を利用したが、材質毎に光の吸光特性は異なる。近赤外線のハイパースペクトルカメラを用い、物質の光の吸収特性を捉えることで、見かけは同じであるが材質が異なるものを区別することが可能になる。

図2:カラーカメラとハイパースペクトルカメラによる石とジャガイモ
図3:ジャガイモと石のスペクトル情報

このように、ハイパースペクトルカメラは、通常のカメラでは実現できない判別が可能であり、マシンビジョンにとっては非常に有効である。しかし、ハイパースペクトルカメラが利用されていた研究用途や航空宇宙用途では、1000万円以上というのが通常であり、一般的に利用されるには高価であった。その大きな理由というのが「精密な手作業による組み立て」と「光学部品が市販品の組み合わせで冗長」という2つであった。

常識を打ち破ったSpecim社

しかし、数十年間にわたってハイパースペクトルカメラを製造してきた実績を持つフィンランドのSpecim社が、これまでの常識を打ち破り、価格を一気に下げることに成功した。それを実現できた要因は以下の2つである。

  • 汎用品の組み合わせだった光学部品をハイパースペクトルカメラの目的だけに特化して設計した。これにより、光学部品のコストを抑制した。
  • 精密な手作業での組み上げが必要となる製造工程を、動化もしくは単純化によって大量生産の体制を整えた。

こうした意欲的な取り組みにより、カメラにかかるコストをこれまでの半額にまで抑えることに成功した。さらに、サイズも圧倒的に小さくなったことによって、マシンビジョンでのハイパースペクトルカメラの活用が可能になった。

ハイパースペクトルカメラを利用した適用事例

これらの要因により、価格を従来の半額にまで抑えることに成功したことで、マシンビジョン分野でのハイパースペクトルカメラの活用が可能になった。以下では、近赤外線のハイパースペクトルカメラを利用した食品検査における適用事例を紹介する。

① 選別機
米、麦、豆、茶、といった粒状の物質に混入する異物を取り除く装置があるが、現在はどれも3バンドRGBカメラで行うのが通常である。しかし、色が似たようなものを選別するにはカラー情報では不十分であり、スペクトル情報による物質の違いが有効である。

図4:レーズンと異物、茎の検出 (画像提供:Perception Park)

また、食肉に関してもスペクトル情報による区別は有効である。以下の例は、肉、脂身、骨の部分を識別している。

図5:食肉における肉、脂身、骨の分類(画像提供:Perception Park)

② 外観検査
りんごは外部より衝撃を受けると、衝撃を受けた部分の細胞が破損し水分が多くなる。これを通常のカメラでは捉えることができない。しかしながら、近赤外線のハイパースペクトルカメラで撮像を行うと、衝撃を受け変質した部分を捉えることができる。

図6:りんごの変質した部分の外観検査(画像提供:美和電気工業様)

③ 噛みこみ検査
食品自体の検査だけではなく、充填における検査においても利用できる。図10のように、包装シール部に噛み込みが発生すると、製品が小売店に届くまでに腐食が発生するので検出が強く求められている。しかし、シール部まで印刷がされている場合が多く(以下はシール部の印刷はないが)、その場合は2次元の画像処理では検出が不可能になる。それに対し、ハイパースペクトルカメラを利用することで、捉え噛み込んだ食品を捉えることができる。

図7:噛み込み検査の例

これまで目視でしか行えないと考えられていた分野において、ハイパースペクトルカメラを利用することで、省人化を進めることができると考えている。また、通常のカメラによる異物検査においても、スペクトル情報を利用することで検査の正確さを高めることができるのである。