*本原稿は、2018年10月16日の「マイナビニュース」で 掲載された記事「 日本メーカーが大苦戦!マシンビジョンの世界で何が起きているのか?(13)」を一部加工し、転載しています。

普及を始めるディープラーニング技術

ディープラーニングの技術は、様々な分野にて本格的な導入が進んでいる。ただし、その多くは安全性が求められない分野が多く、音声認識やターゲティング広告、ニュース配信などが挙げられる。画像処理の分野でも同様に、顔認証や医療画像診断の補助機能、写真の検索用タグ付けなどは、安全性が求められない。一方、自動車の自動運転など、安全性が求められる分野においても、まだディープラーニングの技術は本格導入に至っていないのが現状であろう。

様々な分野で活用されているディープラーニング

それに対して、モノづくりにおける安全性を担保する「製品検査」の分野では、ディープラーニングの採用がどれだけ進んでいるのか、そしてその将来はどのような世界が予測されるのだろうか。2018年9月の時点での製品検査におけるディープラーニングの採用に対する考えをまとめると、ディープラーニングの技術が画像処理に有益なことは明らかである。その上で、工場の中の画像処理における実態に迫りたい。

これまで用いられてきた一般的な画像処理技術(2値化、ブロブ解析、パターンマッチング、ステレオビジョン等)は、「ルールベース画像処理」と呼ばれている。例えば、ブロブ解析では円形のものを見つける、面積が大きいものを見つける、細長いものを見つけるといったことを「面積値」や「真円度」、「縦横比」といった形状特徴量を用いて数値化し、そこに閾値を設定して抽出するといったことを行っている。

ちなみに、このような形状特徴量は50個以上存在しており、知識と経験をベースにそれらを組み合わせて目的を達成しているのが現状である。しかしディープラーニングでは、抽出したい目的の画像を学習させるだけで、これらの形状特徴量として適切なものを勝手に組み合わせてくれる。円形のものを見つけるのはルールベースで「真円度」だけを頼りにすれば良いものの、星形を探すとなると一気に選ぶ特徴量が難しくなるのが想像できる。

ディープラーニングは魔法の杖か?

ディープラーニングを導入すれば、既存のルールベース画像処理では実現できなかった処理が簡単に実現できるかもしれない。そのような期待を持って、多くの企業がマシンビジョン分野へのディープラーニング導入を検討している。しかし、マシンビジョンにおいて、ディープラーニングはあくまで多様な画像処理手法の中の1つであって、画像処理のすべての役割を担えるような魔法の杖ではない。

例えば、マシンビジョンの機能群は大きく「検査」「位置決め」「計測」「自動認識」に分類されるが、「位置決め」や「計測」においては、従来のルールベース画像処理の方が圧倒的に精度は高く、ディープラーニングを適用する意味が無い。誤解のないように補足するが、「位置決め」や「計測」をディープラーニングでは実現できないと言っているのではなく、演算量を多く必要とするディープラーニングをわざわざ用いる必要が無い、ルールベース程に精度を出せないという意味である。

また、「自動認識」においては、バーコードやデータコード読取にディープラーニングを適用することはできない。結論としては、マシンビジョンの世界ではディープラーニングを活かせる分野は「検査」に限られる。

マシンビジョン機能群

検査における画期的なイノベーション

検査の分野に限って言えば、これまでルールベースの画像処理では実現できず、未だに人間の目視検査に頼っていた部分をディープラーニングが実現するようになったことは画期的であり、これまで工場内の画像処理技術(マシンビジョン)としては、ある程度の
限界まで達しつつあった状況を打破する転機が訪れたと言える。

ディープラーニングがもたらすメリットを2つの観点で考えたい。1つはこれまでの画像処理ではまったく検査できなかった内容を検査できるようになった。もうひとつは、これまで検査を自動化させる際、技術者が毎回、知識と経験をもとにプログラムを作成していたのに対し、画像を学習させるだけとなり作業が簡単になったということである。

後者については、新たな品種の検査要求が来ると、技術者は毎回、形状特徴量を選択しなければならなかったが(「真円度」「縦横比」など)、これが自動化されると作業が簡単になるだけでなく、技術者が別部署へ移動したとしてもどんな特徴量を利用していたかなど知る必要が無いため、保守が簡単になる。

ルールベースで検査できる典型例とディープラーニングでしか検査できない典型例

ディープラーニングはブラックボックス

「検査」の分野において、ディープラーニングを現場に適用する上での課題として、内部の判断がブラックボックスであることを指摘されることが多々ある。ディープラーニングが「不良」と判断したとき、どのような基準をもって不良と判断したかを外部から観測することは、ディープラーニングの性質上、とても難しい。

そのため、万が一不良品が市場に流出した場合、なぜ判断を間違えたかの要因解析が困難である。これは日本の製造業において大きな課題となるだろう。しかし、アーリーアダプター(先駆者)の考え方としては、判断の根拠がどうであろうと、結果が人間と同等もしくは人間の判断以上になれば誰も根拠を求めなくなるということである。その考え方をベースに、ディープラーニングの判断の正確性の検証を繰り返し、人間と同様かそれ以上の成果を確認することができたとして、生産現場に適応する事例が確実に始まった。

具体的にディープラーニングの導入が進んでいる工程の一例として、目視で行われているベリファイ工程の自動化を紹介する。自動外観検査機で画像処理による良/不良判定を行う一般的な製造工程では、不良品の市場流出が絶対に発生しないよう非常に厳しいパラメータ設定で判定が行われる。これにより不良品が市場に流出することは無くなるが、同時に多くの良品を不良品と判定してしまい歩留まりが下がる(オーバーキルが発生)。そこで、不良品群に対して検査員が目視検査を行い、本当に不良かどうかをダブルチェックする。この工程がベリファイ工程である。

検査員によって判断にバラつきが有り、また、同一検査員であっても日によってバラつきがあるため、ベリファイ工程も自動化することで、品質向上と生産性向上を図りたい。しかし、自動化するには判定基準のルール化が難しい工程でもある。そこで、熟練の検査員の判断に基づいて学習を繰り返すことで、平均的な検査員の判定精度を超えるディープラーニングネットワークを構築することが可能となる。ディープラーニングの有用性は、統計的に判断されることになる。また、ベリファイ工程へのディープラーニング適用は、不良品群に対するダブルチェックであるが、逆に良品群に対してディープラーニングでダブルチェックを行い、さらに厳しく検査を行う、という形の活用も進んでいる。

アーリーアダプターの中には、ルールベースでの処理ですらディープラーニングで置き換わる日が近くに来るだろうと予測し、検証を続けている。ここも統計的な判断が重要となるのだが、ルールベースの検査とディープラーニングの検査において、統計的にディープラーニングの精度が勝るようになれば、ルールベースを完全に取り除くことができるようになる。それがすべての検査項目においてすぐに実現できるとは断言できない。しかし、近い将来、アプリケーションによっては、確実にルールベースをディープラーニングが置き換えていくだろうと考える。

ディープラーニングがルールベースを超える

近年の画像処理市場を見ていると、多くの企業がディープラーニングのツールやソリューションを提供するようになった。最近ではあまりにも乱立しているため、実態がつかめないという言葉をよく聞くようになった。今後は、製造業における画像処理分野でディープラーニングの技術を採用するにあたり、どのような観点でツールを選定するべきか、どこか差別化ポイントなのかといった点を紹介したい。

 

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